【8月末で一区切り】国枝“厩務員”が短期放牧へ。理想の馬づくりは次章へ続く

09/04 (金) 厩務員・国枝栄の調教日誌

4月7日から8月31日までの約5か月間、ヘルパーとして所属していた小島茂之厩舎を辞め、9月1日からは「フリー」の身となった。とはいえ、8月30日(日)の午前中まではシッカリ働いて作業もしていたし、職務は全うしたつもり。

▲勝利したトゥザファイナルを労う(8月28日撮影)
小島茂之師には最初から準オープン馬を担当させてもらったり、古馬の未出走馬から2歳の新馬まで色々な馬をやらせてもらったり、「アパパネ」「アーモンドアイ」の名がついた馬運車で移動させてもらったりと、気を遣ってもらったこともたくさんあったと思う。

京都遠征や函館滞在も経験させてもらったしね。本当に感謝している。


トゥザファイナルで厩務員として初勝利を挙げたあとは、数十件単位でさまざまな人から電話、メール、ラインがきて祝福を受けたし、函館に戻ったあとは関西のこちらが知らない厩務員などにも「おめでとうございました!」とか声をかけられた。

反響の大きさにびっくりもしたけど、ありがたかったね。

ヘルパーとして駆け抜けた5か月間
現場で実感した競馬の奥深さ

振り返れば、ヘルパーとして働きだしたときは、いちいち作業手順を確認しながらでバンテージひとつ巻くのもおぼつかず、1頭手入れするにも時間がすごくかかっていた。それが、徐々に馴染んできたのが1か月経ったくらいだったかな。

ひとつひとつ、教えてもらいながら覚えていって、調教師時代は「コレやっといて」と指示していたものが、実際自分でやると「あぁ、そんな単純なモノではないんだな」と実感したよ。

▲真剣にバンテージを巻く国枝厩務員(4月撮影)

基本的な作業内容は同じだけど、自分が調教師としてやっていたカイバのつけ方だったり、水桶の位置や細かな段取りは小島茂之厩舎では微妙に違っていた。

こうして各厩舎が「馬にとってよりよいやり方」を模索しながら切磋琢磨しているでしょう。それを実際に経験したくてヘルパーになったし、そこで1つでも勝利を挙げられたのが良かったね。

やはり、周囲から足手まといと思われたらやっている意味がないと第一回の連載で言ったし、競馬は優勝劣敗の「勝負の世界」だから。なので、この約5か月の経験をベースに、できれば今年中にまた別の厩舎でヘルパーとして働きたいと思う。

向上心を胸に次のステップへ
経験と頑健な体が生み出す自負

積み上げてきたものはあるにせよ、たった5か月程度ではまだまだ熟練とは程遠いのは分かっている。

それでも、レースに使った1頭を放牧に出し、厩舎内で短期間でも1頭持ちになったときに時間的余裕があるので、他のスタッフにくっついて細かなことを勉強させてもらったりはしていた。

次の厩舎でも、できるだけそういう時間を取ったり、実践できることはして、もっともっと色々なことができるようになりたいんだ。

幸いにも、健康状態はすこぶる良いし、どこにも痛みも出ていない。札幌で勝ったときには初めて1日2頭の担当馬が出走して、周りのスタッフから「大変ですよ」と言われていた。

▲8月22日(土) 札幌1R トゥザファイナル
勝利へ向け、一歩一歩周回を重ねる
トクシーカイザーで東京競馬場に行ったとき、もう1人のスタッフが2頭使いで、帰りの馬運車では疲れて爆睡している姿も見ていた(連載No.5)。

でも、暑熱対策の最中でラクだったのはあるが、一日をやり終えてもガクッとこなかったし、ジャストピーチー(8月22日・札幌5Rに出走)のレース後の手入れを終えたあとは11Rのパドックにも行けたくらいだったからね。


朝の曳き運動をやってから装鞍所、パドック、返し馬までの付き添い、レース後の運動や手入れなど、全部で3万歩くらい歩いた計算になったが、別段何ともなかったんだ。

普段、トレセンでも1万5000歩くらいは歩いているし、担当馬がレースに出走する当日は2万歩近く歩いているから、会社内で内勤しているサラリーマンより遥かに歩いているでしょう。その下地があるから、健康面での自信や自負はあるんだ。

▲レースの日はもちろん、
トレセン内でもとにかくよく歩く!
またヘルパーとして別の厩舎に、というのを妻に言ったときも「じゃあ、やったらいいんじゃない?」と理解をもらったし、体が動けるうちは続けるつもり。

思い描く理想の馬づくりと
日本競馬の将来へ向けた提言

今後の夢は、ダービー制覇とか重賞勝ち馬を出すとか大それたことは言えないけど、「誰が見ても行儀のいい馬」「躾が行き届いて従順な馬」を造ってみたい。

よくGⅠで「ベストターンドアウト賞」というのがあるでしょう。あれは「最もよく躾けられ、最も美しく手入れされた出走馬を担当する厩務員」に贈られる賞だが、それを獲ってみたいよね。

まぁ、GⅠの舞台に立たないといけないんだけど、そこまでいかなくても「普段から大人しくて、レース中やレース後でも鞍上の言うことを素直に聞く」という馬をイチから造りたいんだ。

このあたりはまだまだ、アメリカやイギリスなどに遅れを取っているように思うし、これには自分だけではなく周囲の協力ももちろん必要にはなってくるが、やはり夢ではあるよね。

函館競馬場に滞在してみて分かったが、東西の厩舎で700頭ほどで調教するのと、2000頭近くが在厩する美浦トレセンとを比べても、馬のリラックス感がまるで違うんだよ。

調教時間やハローがけが決まっているのは同じとしても、コース入りする数がそもそも違うし、出張しているスタッフもどこか余裕があって、ピリピリしていないんだよね。

▲ジャストピーチーの函館調教
馬上からは笑顔がこぼれる(8月16日撮影)

こういう、人馬ともリラックスしながら調整できる施設、態勢を整えれば馬の躾においてもできることは多いし、改善の余地はまだまだある。

自分が言って簡単に実現できるものではないが、横並びの全休日のシステムをなくせば労働災害の減少や労働力の確保に繋がると思っているし、まだまだ提言できることはある。

自分の技術の向上はもちろんだが、将来に向けてよりよい道を示すのも必要だと思っている。少しの間「短期放牧」に出るけど、また新しく就く厩舎が決まり、ヘルパーとして働き出すときまでしばらく当連載も休載となるが、戻ってきた際はお付き合いください。

(執筆:守屋貴光)


守屋貴光
情報トランスポーター

守屋貴光

情報 美浦 取材

「視点を替えれば真実へ近づく。競馬も芸能界も同じです」──かつて某・有名芸能誌で毎週のようにスクープをスッパ抜いていた根っからの情報屋。競馬界に転身した今となっても"ウラ"を読むクセが抜けず、真の情報を求めて現場を奔走する。現在は厩務員として過ごす元調教師・国枝栄をはじめ、GⅠ常連陣営の取材担当も歴任している。 (担当厩舎:蛯名利、大竹、栗田徹、黒岩、鹿戸雄、高柳瑞、畠山吉、松尾)