心地好い居酒屋

心地好い居酒屋

05/20 (水) 心地好い居酒屋
「昭和の日」の前日28日に「頑鉄」では“昭和の御姫様”(昭和64年生)を待って久々の宴が始まったのだが、その御姫様がご来店できたのは予定より遅い7時前。

もちろん事前の電話連絡はあった。それでも待った。遠野が<一ヶ月振りの酒はおまさちゃんの酌から>と決め、親爺にも宣言したからだ。

息せき切って現れた梶谷は酒が用意されていない卓を見るや挨拶も詫びもそこそこに「まだ?」と。

「禁酒の後の一杯は『まずはおまさちゃんの酌で』ってのがとのさんの望みでね」。親爺が言うと「えっ!あらっ!。そ、そんな……。」。

後は絶句で涙目に。聞いた親爺はそそくさと準備を。

すでに到着済みの井尻と横山の前にはビールがある。「では」と言って梶谷が遠野に酌をしたのだが、グラスに触れるか触れないかの時点で“カタカタ”と。梶谷のしなやかな指がかすかに震えている。

遠野は書痙の手で四合瓶を受け取り今度は梶谷へ。珍しく梶谷は左手を添えて酌を受けた。それから親爺へと。

井尻の「僭越ながら」の発声で退院祝いでの乾杯となった。遠野は最初にチョビと舐めるように飲み、残りをグビッと。

「はぁ~。効くぅ。美味い。おまさちゃんを待ってた甲斐があったよ。心配かけてごめんね」。遠野が言うと「ホントにもう遠野さんったら。でも嬉しかったです」。

こんなにも神妙でしとやかな梶谷を見るのは初めてだ。当然、他の3人もポカァ~ンの態。相棒の美人秘書・阿部京子が結婚し本気で話し合える相手が少なくなったせいかも知れない。

それはともかく楽しかった。家で一人晩酌を我慢して良かった。とはいえ酒量が過ぎた。3時前からボンベを装着してるし酸素の残量も気になった。反省点ではある。

暑さのせいもあるが、そんなこんなで、この日5月19日は梶谷も間違いなく来られそうな6時半過ぎに顔を出した。

席は結構埋まっていて卓にはビールのジョッキが鎮座している。生は利益率が高い。これなら親爺も吉野も一息つける。

指定席には井尻に横山、梶谷もチャンと居た。

「先日はありがと」

「こちらこそ。いつも送って頂いてすみません」

「なぁ~に。途中(北品川)だもん。以前ならそこから京子ちゃん(大森)ちを通って帰ってたのになぁ」

「そうそう。阿部先輩も心配していてしきりに『お会いしたい』と」

「そうだね。おまさちゃんが機会作ってよ」

「了解です。あっ社長も『ダービー』だけは買うとかで遠野さんに訊いといてって」

蚊帳の外状態だった横山も「ダービー」に反応して「遠野さん、先週の」と言いかけたが、親爺の「それにしてもトランプは情けない。家(アメリカ国内)の中で吠えるばかりで習近平の前じゃ虎どころか借りてきた猫状態。そもそも習近平が言った“トゥキディデスの罠”が何かを知らなかったんじゃねぇか。アハッ。俺も初めて聞いたぐらいだもん。横ちゃんに調べて貰ったら古代ギリシャの人名だとか」。

親爺の評論のおかげで競馬の話は中断。

「俺が思うにトランプが中国を新興国扱いしてる事に対しての皮肉だったと。スパルタとアテネの戦いはお互いの猜疑心やら覇権争いで歴史の古い強国スパルタが新興国アテネに勝つ話だろ。習近平にすれば長い歴史の中ではアメリカなんて赤子同然。『中国は5000年、アメリカは建国250年』と公然と言い放ったんだから。トランプは台湾関連では無言を貫き、イラン問題も中国と妥協。帰国後はすぐにでも壊滅させる勢いだったのに案の定今朝の報道では『イランへの攻撃は延期する』と。尤もこれは喜ぶべきことだが……。バカすりゃ2兆円もの台湾への武器売却は高市=日本に指示するかも知れんぞ。“雌鳥鳴いて国滅ぶ”なんてな」。

遠野はもはや諦め口調だが、竹麦魚(ほうぼう)の炙りを口に入れると「金目より美味いかも。喋って食って飲み、側には美女。やっぱ生きてて良かったかな。ところで横山君、さっき“先週の”と言ってたようだが何?」

“よくぞ”とばかりに横山は身を乗り出し「土曜の新潟6R千直で1番枠から出た富田暁が思いっきり外埒に向かって大斜行。隣の2番の遠藤セイウンは仰け反り1番人気の13番小林美駒も内から寄られ行き場が無くなる始末。1F過ぎには富田の馬は外埒沿いを先頭に立ち、そのままゴール。あんな乗り方をされちゃあ他の騎手は手綱を引くしかありませんよ。それでも失格はおろか降着もなし。レース後、富田には騎乗停止処分が科されましたが、あれは本当に酷かった。これまで遠野さんが仰有ってた通り競馬も今や“やり得”。何とかなりませんかねぇ」

「おいおい。俺に言っても仕方ないだろ。で、記事にしたの?」

「いえ。部長が『そんなスペースはない。書いたところで変わりない。競馬会に睨まれるだけ損。広告の出稿もなくなるかも知れないしつまんない事言うな!』と」

「梯(部長)の言いそうな考えと科白だな。俺たちが現役の頃とは何もかも違ってきたし」

「いえ、時代ではなく意識の違いと思います」。横山にしては珍しく頑なだ。

「アメリカだって先手必勝でイラン攻撃。当初こそ<国際法違反>と宣っていた国々もメディアも今や発言と事実をタレ流すだけ。どうもならんよ」

「ねぇねぇ。梯や室長(甘方)の意向なんてどうでもいいから『ダービー』はどうなの」

「ごめんごめん。社台・ノーザンのお祭りだろうが、俺個人は照哉・社台Fのリアライズシリウスがお奨めだな。社長には“左回りは3戦3勝だから”とだけ伝えて」

「了解です」。梶谷が頷き、先ほどから続けている毛蟹解しに没頭した。

「だけどよぉ。『天皇賞』のアクアヴァーナルは惜しかったなぁ。とのさんが“良馬場条件に”と推していたろ。雨の降り始めが早過ぎた。良馬場発表とはいえパンパンじゃなかったからなぁ。もちろん『オークス』も買うだろ」

「何が“だけどよぉ”か知らんがタラレバを言ったらキリがないが『オークス』の24日だって雨がどうなるか微妙だろ。いろいろ考えるのも面倒だし今回は二世ジョッキーの横山武史、武豊、岩田望来の三つどもえを中心にする積もり」

「あ、そうでした。岩田望も土曜日の京都で直線斜行しての騎乗停止。30、31日は乗れません。ほら、停止前の一発って良くある話じゃないですか。アンジュドジョワには注意が必要ですね」

「ふぅ~ん。そんな意味で狙う訳じゃないが望来も降着なしで騎乗停止なの?何着?。被害を被った馬は?」

「望来は④着で被害馬は……。ちょっと待って下さい」とスマホを弄り「3頭居て⑦⑬⑮着です」

「俺の知らないウチに降着や失格の規定が変更されたのかなぁ。やっぱやったもん勝ち。いちいち気にしてたらキリがないな」。ぼやきが出た。