心地好い居酒屋
車内のサーモメーターを指差しながら横山が言う。
「選挙ねぇ。野田と山口、特に野田がバカ過ぎた。民主党政権時代には公約破りの消費税アップを決め、仲間割れとなり支持率も急降下。そんな中、安倍の挑発に乗って解散を決めた盆暗総理だよ。それが立憲と国民に分裂、挙げ句いつの間にか再び立憲の代表に返り咲き、訳分からん「中道連合」なんか結成しやがって。負けるのは当たり前だろ。
口じゃ「万死に値する」なんてほざいていたが、死にゃしないし、今、野田が死んだって何の役にも立たん。議員辞職するか、次の参議院選挙か衆議院選挙前に死んでくれた方が同情票も集まって少しは「中道」の候補者に貢献するかもな。尤も次の選挙まで「中道」そのものが消滅しているかも知れんが。
だいたいアイツ一人が欠けたって「中道」の勢力にはなんの影響もないだろ。むしろ<野田が居ないんなら>と言って他党や無所属から入党する議員が出てくるかも。3人はいれば49-1+3=51となり単独で内閣不信任案を提出できるし。野田と山口の1+1=2+αより現実的だと思うぞ」と遠野。
横山の迎えも4,5回にはなるしナビ不要の勝手知ったる道での道中。つい与太話に花が咲く。
「親方さんもビックリで『とのさんの読みが当たったなぁ。公明党の離脱は、そうなるよう仕向けた作戦参謀の韓信役が居たってこと。それにしてもあんなにオナニー好きが多いとはなぁ』と」
「ふっ。自維=で自慰ってか。親爺らしいなぁ」
「えっ!自分はすぐピンとくる遠野さんにビックリですよ」
「平成元年からの付き合いだからなぁ。そんなことより“盆暗”は分かる?」
「ぼぉ~としてるとか阿呆とかでしょ」
首を傾げながらもちゃんと前を向いて運転を続ける横山が答える。
「間違っちゃいないが、元は<盆に暗い>。つまり賽子博打に弱いってこと。流れを読めない勝負勘のない奴を指すんだ。後でグーグルで確認してみたら。あっ。そうそうついでだから言うけど“三寒四温”てのは本来は立春前に使う言葉だと俺は思う。まぁ旧暦から新暦に移って今じゃあ2月~3月に使われるのが普通だから横山君の言葉に違和感はないけどね」
「ありがとうございます」
「爺いの戯言をちゃんと聞いてくれるんだから、こっちこそありがとね」
「と、とんでもないです。3月中には実家に返さなくちゃいけないし、できれば後、2,3回はお迎えに上がりたいのですが」。
あくまで横山は謙虚だ。
「ところで先週はどうだった?<ウイン5>にも挑戦したんじゃないの?」
「はい。久々のキャリィオーバーでしたし。2・2・2・3・3の72点を親方さんと乗りで。でもウイン2で終わりました。東西のメーンもやられでチョッピリ損でした」
「ま、そんな日もあるさ。今後とも親爺を頼むよ」。
遠野が言った直後に銀座インターを出た。「降りたよ」と親爺に電話を入れた。
「頑鉄」に着いたのは5時前。薄暗い中、親爺が待ち構えていて、助手席のドアを開けるや酸素のキャリィバッグを抱え降ろしてくれる。至れり尽くせりではある。横山は車庫に入れるべく走り去った。
「お疲れお疲れ。横ちゃんが『行きたい』と言ってな。体、大丈夫?」
「酷かったら来ないよ。横山君に感謝感謝だ」
「おまさちゃんはまだだし、俺の武骨な手で申し訳ないけど」と言い、外したチューブ(正式には鼻孔カニューラ)を受け取り、席についた遠野に格子枠から手渡す。
「どっちにする」
「冷えるけどやはり『洗心』だな。横浜で俺が行く店には置いてないからなぁ」
「あいよ」。
早速四合瓶とグラス、続けて板わさに松前漬けを運んできて斜め前に座り込む。軽くグラスをあげてグビッと「はぁ。美味い。生きてるを感じる瞬間だな」
「良かった良かった。胸くその悪い選挙結果だったが、こうしてとのさんと飲んでるとほっとするよ。それにしても凄ぇな。この勢いじゃ維そ新・吉村が騒ぎ立てる“アクセル役”なんて要らんだろ。アイドリングだけで十分過ぎるほど動くよ」。
親爺からアイドリングなんて言葉を聞くとは思わなかったが「このままだと内閣府の公用車じゃないが、今の自民がアクセルを吹かせたら赤信号でも突っ走るんじゃねぇか。それが心配だよ」。
遠野が応えて松前漬けの数の子を食べる。
「何が原因でこうあなったかはまだ発表がないが、そんなのドラレコを調べれば最低限のことは解るんじないか。横ちゃんの車も札幌に帰ったらドラレコを見せる条件で借りてるらしいし。それとも官邸で隠したい事でもあるのかねぇ」
「それがな、派遣の公用車には内閣府だけじゃなくドラレコが装備されてないらしんだ。聞かれたり見られたりするのを避けてるんだろな」
「ふ~ん。結局は政治家も役人も隠蔽、秘密主義ってことか」
「何を今さらだが、俺も久米宏の年に近づいたし、生きてる内に戦争は起きないか。いや、孫の代までないことを祈るのみだな。庶民は……」
「まぁそうだな。ヒトラーが自害寸前に『ナチズムは終わったが100年後には同じような思想が生まれてくる』と宣ったそうだが、老い先短い庶民が19年後(1945年+100年=2045年)を案じても仕方あんめぇ。それより明日の飯、いや今週の馬券だ。とのさんも『フェブラリーS』は買うだろ。今年最初のGⅠだし」
「GⅠとかは関係なく買うさ。親爺は横ちゃんと相談して買えばいいけど、俺が今、狙っているのはロードクロンヌ。何年か前に『横山親子に注目。ついでに横山君にも』と言ったことがあったろ。最近の親子を見てると自分自身も胸をなで下ろしている状態。尤も和生の活躍は予想以上だったが……。
和生に乗り替わって<③②①着>。“地位が人を作る”というが現代の人は地位を利用するのみ。当てにはならんが“強い馬が騎手を育てる”のは間違いない。以前の和生はローカルで買い。関東本場が武史、関西本場が親父の典弘の仕分けをしたが、タイトルホルダーで春・天皇賞と宝塚記念を勝ってから自信と勢いがついたようだ。『ローカルで』なんて言ったお詫びを兼ねてな」


