16年8月にこの世を去った清水成駿。ファンの皆様から追悼メッセージをいただいた中で、「清水といえばジャパンC、ジャパンCといえば清水」というお声を本当に多数頂戴いたしました。
そこで、今年のジャパンC開催を目前に控えたこの季節に、清水成駿が「1馬」在籍時に綴ったジャパンCの予想を、当時の新聞のまま復刻公開!今もなお色褪せない“孤独の◎”の数々をどうぞご賞味ください。(協力:優馬)
2年越し恋人、ランドがドイツからやってきた
92年トウカイテイオー、93年レガシーワールド、94年マーベラスクラウン。
3年連続の日本馬制覇で「外国馬恐るるに足らず」のムードが支配的だった95年のジャパンC。
直前に出走取消したタークパサー含めて、9頭すべてGI勝ち馬という強力な外国馬の陣容だったが、三冠馬ナリタブライアン、女傑ヒシアマゾンという前年に有馬ワンツーを決めた5歳(※年齢は旧表記)コンビを支持する予想家が大多数だった。
前年圧倒的な強さで三冠を制したナリタブライアンは、前走・天皇賞秋こそ12着と人気を裏切ったが、叩き良化タイプでここは巻き返し濃厚とみられ、一方のヒシアマゾンは外国産でクラシック出走こそ叶わなかったが、エリザベス女王杯を制し、この年もオールカマー・京都大賞典を難なくクリアして破竹の勢い。
外国馬では、前年1番人気5着で2年連続の参戦のサンドピット、アーリントンMでそのサンドピットを退けてレコード勝ちしたアワッドの米国勢、前年4着で凱旋門賞2着のフランス馬エルナンドといった辺りが注目を集めた。
しかしこの年、清水の眼中にあったのは日本馬でも、英仏米の競馬先進国の招待馬でもなく、ドイツから来た伏兵ランドだった。
【今日のスーパーショット】
JCは2年越し恋人、ランドがドイツからやってきた。初のJCエントリーはすでに独ダービーを勝った4歳時、この時から来日すればこの馬と心に決めていた独トップホースだ。
ナリタブライアンが国内最強馬なら、このランドも同じ。ざっと出走馬14頭を見渡して、国内最強の位置付けができる馬といえばこの2頭ぐらいなもの。
仮にドイツがランドを擁してJCを勝てないようなら、JC優勝は永遠のテーマという枠を抜け出すことはないだろう。
バケツ一杯の雨でホールドアップ。だからバーデン大賞からの⑦④⑫着はまったく気にならない。むしろ凱旋門賞④着など大のつく好走といっていい。その証明が良馬場の時計勝負でイブンベイの持つレコードを8年ぶり、実に1秒も更新したイタリアのミラノ大賞。
欧州馬ながらベストはこういう堅い馬場であり、時計勝負のスピード馬場。まさに府中2400で斬れるタイプの馬だろう。
それを一番よく知っているのが鞍上マイケル・ロバーツ(※1)。ランドの強さと日本のコースを一番よく知っている男。まさにJCの最強コンビであり、今回の遠征もそこから生まれた。幸い最終追い切りも一杯に追われ凱旋門→ブリーダーズCの後遺症は微塵も感じられない。
2番手は接戦。ただ、招待しておきながら3年も続けて勝っているホスト国の日本馬、4回も核実験を強行した(※2)フランスの所属馬、道義的、人道的理由から軽視した。
本線はJC一本に狙いを絞ってきたサンドピット、古馬を一蹴してきたというのに少女のような体つきに妖しい魅力を感じるピュアグレイン。逆に米No.1アワッドは少しお疲れのようだ。(清水 成駿)
(※1)マイケル・ロバーツ……南アフリカで騎手デビューし若くしてリーディング、英国に渡っても92年に首位騎手を獲った名手。91年のJCテリモンで初来日。95年に短期免許取得。ランドのJC制覇ほか、98年朝日杯をアドマイヤコジーンで制して外国人騎手ブームの先駆け的存在となった。
(※2)「4回も核実験を強行したフランス」……1960年台半ばから96年まで、フランスは南太平洋の自国領ポリネシアの環礁で大気圏内と地下における核実験を断続的に行い、国際的に強い非難を浴びた。
レースを引っ張ったのは、タイキブリザード。名手岡部を背に、首の低い独特の走法で淡々とハナを切る。差なくサンドピットが先行し、ナリタブライアンとランドは並ぶように中団、ヒシアマゾンは最後方。
4角手前からランドが早めに進出、これに合わせてナリタブライアンも仕掛けつつ最後の直線へ。
馬場の三分処を真一文字にランドが伸び、残り200を切って早くも先頭。ブライアンが伸びあぐねる中、大外からヒシアマゾン、馬群を割ってエルナンドが脚を伸ばすが、先に抜け出したランドを脅かすには至らず、そのままゴール。
逃げたタイキブリザードが4着、ナリタブライアンは6着に終わり、日本馬のV4はならなかった。
『ドイツがランドを擁してJCを勝てないようなら、JC優勝は永遠のテーマという枠を抜け出すことはないだろう』
コラム冒頭で「独ダービーを勝った4歳時、この時から来日すればこの馬と心に決めていた」と記した◎ランドで、2年越しの狙いをモノの見事に結実させた清水。
良くも悪くもインターネットで何でも検索できる現在と違い、入手できる海外競馬の情報は限られていた当時に、「欧州馬ながらベストはこういう堅い馬場であり、時計勝負のスピード馬場」とココまで潔く、キッパリ断言できた予想家が果たしていただろうか。
肩書きや前評判を鵜呑みにせず、記録と自分の目、インスピレーションを何より重視するスタンス。
これ以降も、乾坤一擲の◎から数々のヒットを飛ばすのだが、95年の6番人気・ドイツ馬ランド◎が『JCといえば清水成駿』という代名詞の始まりといっても過言ではない。(文:元1馬・和田)
1995年11月26日(日)
第15回 ジャパンC(G1)
1着[独]④ランド(6人気) 2:24.6
2着[日]⑫ヒシアマゾン(2人気) 1馬身1/2
3着[仏]⑩エルナンド(7人気) クビ
4着[日]⑨タイキブリザード(4人気) ハナ
5着[米]⑬アワッド(5人気) 1馬身1/4
単勝 ④ 1,450円
複勝
④ 440円
⑫ 170円
⑩ 380円
枠連 3-7 1,960円
馬連 4-12 3,310円