協力:
  • Googleログイン
  • ログイン
  • 無料会員登録
  1. トップ
  2. 無料コラム
  3. 心地好い居酒屋
  4. 心地好い居酒屋:第146話

競馬コラム

心地好い居酒屋

2024年07月10日(水)更新

心地好い居酒屋:第146話

「七夕賞」は連③⑥=赤・緑で420円。一番人気決着だったが首都決戦は違った。緑の狸が抜け出し圧勝。赤い狐は失速、②着に青い3歳馬が突っ込み小波乱となった。


「恐らく小池が勝つだろうな、と思ってはいたが、これぞ“瞬殺”。投票締め切りと同時に小池当確。最終的には蓮舫が千切られての③着とはなぁ。告示前にとのさんが『妄想だが』と断って『政党色を隠さないで正々堂々と戦えば分かりやすい。蓮舫は野田佳彦と志位和夫を小池は萩生田光一と山口那津男を選挙カーに乗っければいいのに』なんて皮肉ってたが、まさか蓮舫陣営がその二人を弁士に立てるとは……。なんのための無所属か訳分からん。党勢拡大目的で志位が表に出たがるのは理解できるが立憲(民主党)崩壊の元凶でもある野田がしゃしゃり出てきたんだからビックリ。あれじゃあ蓮舫が連を外しても仕方ない」。親爺いきなりの愚痴とため息だ。おまけに駄洒落も。


選挙翌日の8日―。


週末に函館に飛び、それから札幌に入るという横山。「横ちゃんが『行く前に遠野さんにお会いしたい』と願ってたぞ」との親爺たっての頼みで「頑鉄」に顔を出した遠野。横山の姿はまだ見えない。


「俺も魂消たよ。野田を筆頭に立憲の幹部は勘違いも甚だしい。ほれ、随分前に枝野の夜郎自大ぶりを話したことがあったが、アイツらは本当にテメェらの実力。それに伴う評価と立場を知らなすぎる。裏金発覚以来の選挙で多少でも勝ったのは自民のオウンゴールがすべて……。と言ってもいいだろ。そういやぁ枝野も応援演説してたってな。お~怖だ。今日の雷じゃないが“くわばらくわばら”」


体を竦めながら生の胡瓜を摘まみ口に入れた。シャキシャキ瑞々しくて美味い。


「立憲にはきっちりした作戦、戦略を考えられる奴はいないのかね。その点でも狸陣営の公務作戦と自民隠しは凄い。もっとも公務を放映するテレビもテレビだが。八王子市の都議選の結果が示す通りで萩生田が小池と一緒に選挙カーに乗り、その場面が放映されれば100万票は減ってただろうな」


築地で半世紀以上商売をしている親爺にとって築地を裏切った小池には憤懣やるかたない。


「で、横山君はいつ発つの?」


遠野が訊いて「洗心」を一飲みした時に玄関が開いた。


横山だ。早足で近づくなり座敷手前で頭を下げ「今日はご無理言って申し訳ありません。ありがとうございます」


「おいおい堅苦しい挨拶はやめて早くいらっしゃい」


遠野が隣の席を指さす。前は梶谷の席……。のはず。


「失礼します」と言って腰を降ろす。やけに丁寧である。遠野の病状は百も承知なだけに嬉しさも一入の様子。遠野にとっても喜ばしいことではある。


「お疲れ」と言って酌をし「で、いつ発つの」


「あ、はい。いただきます。土曜日の確定を済ませたらすぐ。空港から即、競馬場です。やはり『2歳S』は見ておきたいので」


「そっかぁ。ご立派。一泊?二泊?」


「二泊です。日曜日夕方の函館→丘珠はチケットが取れないので」


細かいことではあるが偉い。結論を先、つまり尋ねた答えを言い、それから理由を簡潔に説明する―。なかなかできないことだ。


「じゃあ日曜日は美味しい酒と肴のためにも勝たないとね」


「その積もりです。で、遠野さんの『函館記念』は?いえ、生意気なようですが『宝塚記念』には感服しました。仰有ってた通り雨で道悪。親方とも相談して直前にブローザホーンの単勝と馬連は流しで」


「それはそれは。良かったね。生意気も何も褒められ、感謝されれば俺だって嬉しいさ。なっ親爺!」


「えへっ。横ちゃんが『自分で言うから』ってんで……。とのさんから結果を訊かれるまでは黙っていようと」


遠野とてたまたま当たったからといって人の馬券の結果を訊く積もりはない。


「そうさなぁ」


遠野は横山が広げた馬柱を見ながら考える。


「ローカルは丹内と菱田にメイチ気があるからマイネルクリソーラとオニャンコポンはまず買う。後は豊(武豊)と岩田康誠……。なんのかの言っても丹内を除けば『巴賞』組かな。どっちにしろ最近の函館は特徴が無くなって時計も速い。横山君なら先刻ご承知だろうが、かつては『函館記念』3連勝。それだけで3年分の食い扶持を稼いだエリモハリアーが居たり、馬主が札幌のキングトップガンなんてのも函館得意、8歳で『函館記念』を勝ってるし……。もっともそのデンで言えば今年は8歳馬ハヤヤッコがいるけど10年前とは馬場が違うからなぁ」


<昔は良かった>なんて懐かしむようになったらオシマイらしいが、なぁ~んもだ。


「そうそう。昔話のついでだが昨日の都知事選の小池圧勝を見て急に大川さんの言葉を思い出してな」


遠野がおもむろに言うと「慶次郎さんですか」と横山。


親爺も興味津々らしくグラスを持つ手が止まった。


「いやね。その大川さんがある馬主夫妻に誘われて麻雀卓を囲んだらしいが、次に会ったとき『参ったよ。今度はとのちゃんも連れてきて、と言われたけど気をつけてよ。夫人はエアグルーヴだよエアグルーヴ!強いのなんの。まさしく女傑。ドラも平然と切るし<ニコッと笑って人を斬る>感じで恐ろしい女傑だよ』ってね。金持ちの道楽だと思い大勝ちする皮算用で臨んだものの結果は大負けだったらしい。横山君が生まれたばかりの頃かな。これは20世紀末の話」


遠野の前の席はまだ空いている。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

  • twitter
  • facebook
  • g+
  • line