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競馬コラム

心地好い居酒屋

2024年06月19日(水)更新

心地好い居酒屋:第145話

誰が付けたか“赤い狐と緑の狸”――。


言い得て妙ではある。競馬なら昔は<分割>確実で今は<除外続出>。しかし都知事選に分割も除外(もっとも小池に言わせれば“排除”だが)もない。登録料300万円さえ払えばすべて出走できる。でもって出るも出たりで予定の頭数(あたまかず)はなんと50余。これじゃあ結果に着差がつきすぎて登録料300万円(供託金)の没収者続出は火を見るより明らか。選挙賭博があれば3連複は2点、3連単6点でほぼほぼ当たりだろう。単勝は赤か緑かってことだ。赤の蓮舫は極力赤い共産色を隠し勝負服が緑の小池は自民臭を避けるのに懸命。正々堂々の争いならいっそのこと選挙カーに蓮舫は野田佳彦と志位和夫を、小池は萩生田光一と山口那津男あたりを乗っけた方が選挙民には分かり易いと思うのは遠野だけではあるまい。


診察帰りの車中でバカな妄想に耽って「頑鉄」に着いたのだが、月曜日の早い時間とあって客は0。腰を下ろすや否や親爺が「8年前は良かったなぁ~。小池が受かった時は拍手喝采、7年前の都議選でもあれだけ『都ファ』のせごどん(西郷歩美)を応援したのに」とボヤくことしきり。


「結局その西郷ってのも都ファを離党したんじゃなかったか?そんなことよりとりあえず『洗心』とお新香でも頂戴」


「エヘッ。ごめんごめん。とのさんの顔を見たら嬉しくってよぉ~。ついつい愚痴ちゃった。すぐ用意するから」


親爺の愚痴も無理はない。自民党を目の敵にし都庁を伏魔殿と連呼、受かったら受かったで“築地は守る 豊洲は生かす”なんて綺麗事を宣い、結局跡地にはドームやら高層ビルを建てるとか。築地一筋に生きてきた鮮魚屋→料理人にすればケッてなもんだろう。かと言ってキャンキャン吠える蓮舫が好きな訳でもない。ただ“小池に裏切られた”の思いがあるだけ。国会議員の秘書を務め数多の著名人と付き合い取材もしてきた遠野から見れば所詮どちらも、権力と利権に執着する“政治屋”なのだ。


「ほいお待たせ」で親爺が保冷瓶に入れた「洗心」の四合瓶とお新香、加えて牛肉の佃煮を持ってきた。


「山葵は今擦ってるし枝豆も茹で上がるから」と言い座り込んだ。


「大丈夫だった?」


「ま、完治する病気じゃないしボンベ付きでヨタヨタでも歩けてこうして酒が飲めるだけで十分。欲は言えん」


「同じゆっくりでも“タ”じゃなく“チ”なら可愛いけどなぁ。出生率が1を割るようじゃあこの辺りもヨチヨチ歩きの幼児を見かけない訳だ」


年寄り二人寒~い会話してると玄関が開いた。


「今晩はぁ」


入ってきたのは何と梶谷だ。


「ウフッ。早く来ないと遠野さんと長く居られないでしょ。ボンベの容量には限りがあるから」。正面に陣取るなり舌をチロリと。


「有り難い有り難い。じゃあ早速」と言い、親爺が慌てて取りに行った冷たいグラスに「洗心」を注ぐ。


「早いのは嬉しいけど仕事大丈夫?」。今度は遠野が訊いた。


「だって少しは私も好きなように時間を作らないとやってられません」


「少し!ねぇ」


「だってノー天気な岸田が給与明細に減税分を記すようになんて言うもんだから経理はてんてこ舞い。税理士が説明にきたけどザックリだもの。後はほとんど私。他の人への説明も。局長はもちろんですがお偉い甘方常務も『梶谷君、いや梶谷サン頼むよ。この通り』なんちゃってで頭を下げるんですもの。やっとメドがついたし私が5時ジャストに退社したって罰あたんないでしょ」。なるほどそういうことか。


最初の一杯を飲み干した時、枝豆と板わさに蓴(じゅん)菜が運ばれてきた。と、さすが飲食に目がない梶谷。


「わっ。初物です。高かったでしょ」と声をだし狸、いや緑の蓴菜に箸をつけた。


「独特の粘コリ感が格別、酢味噌の加減も最高だし、吉野さんは偉い」


給与明細作りの苦労と不満は一気に吹き飛んだようだ。やはり美味い飲食はいい。精神の緩和剤にもなる。遠野もつられて蓴菜を、そして酒を飲み、続けて緑の山葵タップリの蒲鉾を口に入れた。


「今日はいい鰺と鱚もあるし、とのさんも少しは刺身も食えるだろ」と親爺。


「もちろん」と応えた時、横山が到着した。「ご無沙汰してます」と挨拶しながら遠野の隣に腰を降ろす。


「酒でいい?」


「はい。頂きます」で再び親爺が立っていきグラスと刺身を持って帰ってきた。


横山は遠野とよほど話がしたらしかったらしく親爺の酌もそこそこに「今週の『宝塚記念』はどうされます?いえ遠野さんはローカルの方が馬券は楽しいのは承知していますが」


「宝塚?日本での騎乗停止が明けたレーンが早速やってくるんだってな。馬はともかくルメールにレーン。日本人なら豊、川田、武史に戸崎だろうがそんなに買っちゃあいられないし俺は道悪期待でブローザホーンからだな。ノーザンと外国人が大手を振るう最近のGⅠはあくまでお遊び馬券。だから出走予定馬だけでいえば馬連はさっき言った通りで3連複は強い女性=牝馬ルージュなんちゃらとの2頭軸流しってとこか」


あまり興味がないとはいえ運動ができなくなった遠野、やはりG1ともなれば登録馬には目を通しているようだ。


「ルージュエヴァイエですか。川田だし名前の由来“赤い夜明け”もロマンチックでいいですよね」


馬キチの横山だけのことはある。良く調べている。


これには親爺も遠野もビックリ。期せずして「赤ねぇ」と。


そして親爺が膝を打った。


「知事選は赤と緑の対決。とのさんが推すブローザホーンとルージュなんちゃらが3枠か6枠に入ったら買いだな」


遠野は“それを言うなら『七夕賞』だろ”と思ったが親爺は一人うんうんと頷いた。梶谷は鰺を横山は鮪の赤身を箸に挟んだままキョトンとしている。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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