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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年10月04日(水)更新

心地好い居酒屋:第139話

午前中に親爺から電話があった。火曜日は休めるってことで「横ちゃんは早めに来るって。2時には来てるんじゃないか」と。わざわざ連絡してくるぐらいだから<何か用事か話があるに違いない>。そう思って「じゃあ午後一番(2時)の(クリニック)予約を取るよ。そうだなぁ3時には着く予定」と返したのだが……甘かった。


「予約は一杯で。でも合間に何とかします」との応えを頼りに2時チョイ過ぎに行くと、すでに待合室は満席。立錐の余地はあってもベビーカーに乳幼児を乗っけた母親が二組立って待ってる状態。受付の看護師さんは、遠野の顔を見るなり「すみませんねぇ。こんな状態でして」「いえいえ。こっちは無理を承知で伺ったんですからお構いなく」とは言ったものの立って待ってる訳にもいかず保険証を預け「じゃあ30分ほどブラッとしてきます」と言い置き外へ。


結局診察が叶ったのは3時前。担当の内科医師曰く「大人のコロナとインフルでしょ。加えて子供はヘルパンギーナにプール熱疑いも。私より小児科の方が大変ですよ」。
産婦人科と小児科医不足のしわ寄せがここにもあった。悪政には慣れっことはいえ、こうして身近に危機と不便を感じると改めて怒りを禁じ得ない。子供手当なんぞ、恩着せがましく金ををバラ撒いて少子化対策とは冗談もほどほどにしろだ。


個人的ながら救いは「薬に余裕があったらお電話下さい。忙しい日は処方箋を郵送します。来院のおかげで病気を貰う危険性もありますから」。
医師と看護師さんの労りの言葉だった。ただ不運は続く。今度は空車が来ない。<何が働き方改革だ>。またしても怒りが込み上げてきた。


ま、そんなこんなで「頑鉄」到着はいつもと似たような4時過ぎ。電話で事情は説明しておいたせいか、遠野の顔を見るなり横山が立ち上がり「お疲れさまでした。大変でしたね」。「“門前市をなす”とは権力者の家の前に人が群れる“ことだが、とのさんのコロナ感染じゃあるまし“まさか”クリニックまでもとはなぁ」。とは親爺。聞いた横山がお茶を飲む手を一瞬止めた。わざわざ親爺が“門前”の諺を口にするのは「ザッツ」の誰かが横山の前で浅草寺か善光寺辺りの人混みを例えたのが語源と宣い、それを信じていたのかも知れない。親爺の親心?


「いやいやお待たせで申し訳ない」。軽く頭を下げ「で。横山君随分早かったんだって?」。何事かを訊く口振り。そこへ「まぁまぁお待ちを」と言って親爺が持ってきたのがイクラだ。「おっ!生イクラか」「何でも近所の魚屋さん自らが捌いた鮭から筋子を取りだし、すぐに醤油漬けにしたらしいぞ。4日前ぐらいまでは親(鮭)も泳いでいたんじゃない」「へぇ~。これはこれは。ありがとね」。遠野が子供のように喜ぶ。


「柄にもなく父が『世話になってるんだろ』と言ってきて…」と横山が照れながら頭を搔く。何年ぶりかの長逗留。一つ屋根の下で一ヶ月以上寝食を共にしたことで祖父も含め親子の絆が深まったのかも。


「そうだ!とのさんにはスプーンが必要だな」と言って立ち上がり、いつもの山葵タップリの蒲鉾と四合瓶を抱えて戻ってきた。「得月」である。


「有り難い有り難い。どれも時期初物だよ」。相好を崩すとはこのことだろう。「いただく前に」と呟き水を。「失礼!」と言い口の中で水をもぐもぐ。そしてイクラを掬って口に入れた。「旨い!。味付けは元よりこのベタプチ感が何とも言えん。ご家族によろしくね」


「遠野さんがそこまで大切にして召し上がってくれ喜んでいただけたのならイクラも本望。父にも伝えます」。横山も嬉しそうだ。「ほら!親爺も横山君も食べなよ」。サービスしてもらって人に勧めている。遠野はもう一匙食べた後「じゃあ」と言いグラスを上げ3人で乾杯の真似事を。それぞれが一杯目を飲み干した後で親爺が切り出した。


「それにしても憎っくきは岸田だな。『関係者の理解なしにいかなる処分もしない』と宣言した直後に汚染水放出だろ。いつの間にか汚染水が処理水だもんな。で、中国が全面禁輸に踏み切ると今度はマスコミも揃って中国叩き。中国のリアクションもオーバーで腹立たしいが、じゃあこれまで納得できなかった関係者への説明はどうなってんのよ。“木は森に隠せ”じゃねぇが中国を非難しまくるのは岸田にすればしめしめ。放出に関しての約束違反記事やテレビ報道はほぼゼロになっちまったもんな」


「風力開発汚職で逮捕された秋本ってのは菅や河野(太郎)の子分みたいですが、岸田にすれば<自分への忠誠がなければこうなるぞ>の脅しですかねぇ」。普段は政治関係の話では自分から喋ることは少ない横山が言った。そんな怪訝そうな反応に気付いたのか「いえ、ほら個人馬主になるための借金(見せ金)とか組合用の馬代金とか釈明してるみたいですが河野一族は競馬界の大物。河野が一言JRAに言えば馬主免許なんて一発でしょ。代議士だし」


「よく気付いたね」「だって遠野さんが以前“河野”と“社台”の関係を少しだけ匂わせたじゃないですか。もっと詳しく善哉さんと河野との昔話を教えて下さいよ」。やぶ蛇になった。


「分かった分かった。それは近いうちに。小狡い岸田と大狡の、ほら風力じゃなく風俗開発の木原も森と原野に隠したし、統一教会問題だってどうなることやら。解散命令を出せば世論受けして選挙に有利と思ってるだろうが裁判で決着がつくまでに財産を釜山じゃなくソウルに隠されたら元も子もないしな。岸田はまさに“犲狼当路”を地で行く人間。安倍が死んでからは怖いものなし。おま、いや梶谷(おまさちゃん)が言ってた通り“重し”が取れてホッとしたんだろうなぁ」。溜め息をつきつつもイクラと「得月」には舌鼓だ。


「本来ならそれこそ“門前市をなす”でちょっとはマシな奴が居てもいいのに閣僚もロクなもんじゃねぇ。<月満つれば則ち欠け、物盛んなれば則ち衰う>か」。親爺も古い。


「仲秋の名月ならそうだろうが何せ門前に人も集まらない、そのくせ人事が大好きな犲狼。身内から反乱が起きるか選挙で鉄槌を下さない限り、肩を揺すりながら官邸を歩き続けるのは間違いない」。我慢の日々が続く。


横山はスマホ片手に検索中のようだ。

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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