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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年08月02日(水)更新

心地好い居酒屋:第136話

温暖化どころか沸騰化を迎えるそうだが、“然もありなん”の猛暑続き。いずれ酷暑→極暑→獄暑と呼ばれるようになるかも。世情が狂えば自然も狂う。電話で「頑鉄」の親爺とそんな会話をしたばかりの8月1日。横浜は午後になると一天にわかにかき曇り昼過ぎには雷鳴とともに豪雨と強風に見舞われた。雷鳴に至っては昨夜の“横浜花火”を凌ぐ大音量。果たして東京は如何に――。


再び親爺と連絡をとると「あはっ。俺も電話しようと思ってたとこなんだ。すんげぇ雨だよ。もはや夕立じゃあねぇな。うんうん横浜もそうなんだ。尤もそんなには続かんだろうし、夕方には上がるだろう。そうなれば少しは涼しくなるかも…。そうだ、良かったら顔を出さない?『洗心』はもちろん『男山』に『萬寿』も飲み放題。いいキンキが入ったことだし」。ここを先途とばかりに誘いをかけてきた。


「そうだなぁ。明日からまた暑くなりそうだし久しぶりに親爺のご高説を承りに参りましょうかねぇ。天気次第だな」。勿体は付けたものの雨が上がり涼しさが残っていれば出掛ける積もりになっている。


様子を窺い“決行”を決めたのは午後4時ごろ。それから髭を剃り服を選んだりで時間はかかり「頑鉄」到着は7時前。入ってすぐ左のゲーム屋さん5人に最近つとに出勤が増えた商社の3人が居るのは納得だが、指定席に井尻が、斜め前に梶谷が鎮座ましまってるのにはビックリだ。


<そうかぁ。もうそんな時間か>


「横ちゃんは札幌だし、おまさちゃんに“とのさんの来店”を告げると『行く行く』って」と親爺。遠野が井尻の「ご無沙汰してます」の挨拶に頷きながら後ろを通り梶谷の前に腰を落とすと「良かった。やっと会えた!お久し振りです。今日は煮魚の取り分け係りですのでよろしく」。チロリと舌を覗かせ梶谷が笑った。


親爺を見ると「おまさちゃんは『毛蟹も解し(ほぐし)ますよ』と言ってくれたけど、さすがに今日は仕入れてなくて」。親爺がハゲ頭を撫でながら苦笑いし「ところで何にする?」「そうさなぁ。たまには『萬寿』にするか」「あいよ」と言って親爺が立ち上がると梶谷はパチパチと手を叩く。その間に仲居のきいちゃんが手際よくお通しと酒の準備を済ませた。


今日は井尻も珍しく「チョビットだけ」と言って日本酒を飲むとかで、全員に酒が注がれた。遠野が「ありがとね」と梶谷に顔を向け乾杯となった。


「“無くて七癖”と言うがおまさちゃんの舌チロリは桁違いに可愛いね。でも正体見たり萩生田の“お尻”だな」。例によってタップリの山葵を載っけた蒲鉾を食べ、ピリッとした喉に酒を流し込んだ後、遠野が口を開いた。遠野から話題を切り出すことは滅多にないし、内容にピンと来ず3人とも手を止めて遠野を見た。


「ごめんごめん。普通は期限や締め切りってのに萩生田はこの間、来秋廃止予定の紙の保険証について『無理に最終的な“お尻”の時間を切らず国民の皆さんに…』なんちゃらとほざいていただろ。もちろん世論向けの言葉に違いないが、それより問題は“お尻”。ほら覚えてない?」「そうだ!」と最初に応じたのは梶谷だ。


「加計学園の獣医学部創設の認可が出来レースだったことが明らかになったキッカケでもある文科省の文書に“お尻は2018年の4月”と記されていたんですよね。官邸も文科省も文書そのものの存在を認めていないですが当時の文科大臣が確か萩生田。期限を“お尻”と言うのは萩生田の口癖なのかも知れませんね」


「おまさちゃんの前で言うのも憚れるが、これが本当の“ケツが割れた”ってことか」「大丈夫。あまり遠慮すると逆差別になりますよ」。親爺も梶谷も面白い発想をする。いつの間にかビールに変っている井尻は呆気にとられている。


「しゃんとしろよ井尻。考えて見ればあれだけ騒がれた加計問題も今や昔。一期生は来年卒業…。国家試験の合格率はどうなるかだが、萩生田だけじゃなく塾の神様・下村も健在だからなぁ。目先のことだけじゃなく昔のことも熟慮して企画→取材→原稿にしないと。『ザッツ』が表に出たもんだけで権力者を叩いても蝿のパンチで全く効かんよ。蚊のパンチなら痒いし血もでるけど」


「高兄ぃのお手並み拝見だね」。梶谷が茶化しながら白身の刺し身に箸を付けた。ノドグロのようだ。


「大谷だってそうだよなぁ。とのさんも怒っていたけど一昨年はオリンピックを盛り上げようとする官邸や菅に忖度したのか指示があったのか知らんが開幕前から中継なし。テレビも新聞も大谷絡みのニュースは控えめ。それが今や寝ても覚めても大谷大谷。とのさんも俺も応援しちゃあいるが大本営発表にはアッタマ来るよ」


「もうすぐ甲子園かぁ。またまたお涙頂戴の感動と感激の記事で溢れるんだろうが、そんなことより公正公平に目を向けて欲しいよ。たまたま横浜と慶応の決勝戦を録画、追いかけながら観てたんだ。あ、おまさちゃんゴメンね。関係ない話で」「いえ。全然。慶応が逆転勝ちした試合でしょ。興味深く楽しく聞いてますから」


「横浜2点リードで迎えた9回表。無死ランナー一塁で打者は二ゴロ。セカンドが取って二塁フォースアウトで一塁に転送。惜しくもダブルプレーにはならなかったが、何と二塁もセーフ。塁審は受けたショートの足が離れていたと判断したんだな。しかし巻き戻したりして何回も観たけどベースの隅を掠めるようにしてベースに触れてるんだ。塁審はベースと相対した位置。傲慢で下手な審判にはショートの俊敏さと行動を含め選手の技術に付いていけなかったってこと。横浜側の抗議は問答無用。千歩譲ったとして、せめて審判を集めて協議すべきだったと思うよ。何処が教育の一環だよ、何がボランティアだよ。甲子園で審判を務めたい審判は都道府県に山ほど居るんだ。ふざけんな!」。喋っている内に段々怒りもエスカレートしてきたようだ。


「ふぅ~ん。ホラ、今はプロでチャレンジってのがあるんだから高校野球も…そうだなぁ地方大会も4強からはプロも使う球場で試合をしてるぐらいだからビデオ判定を取り入れればいいのにね」。梶谷もそこそこに野球も知ってるみたい。続けて「はいどうぞ。召し上がって」と解し取り分けたキンキの皿を遠野に寄越した。


旨い酒と肴に頭の回転も早い美女。いつまでもグダグダは言ってはおれない。「バカに権力を持たせちゃいかん。とのさんが教えてくれた言葉が染みるなぁ」

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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