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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年07月05日(水)更新

心地好い居酒屋:第135話(1)

地球温暖化とやらで以前にも増して昨今の自然災害は大規模だ。狭いようで広い日本。大雨で洪水被害があればカンカン照りで熱中症続出の場所もある。梅雨末期の現象で今を乗り越えれば…。確かに梅雨は10日前後には明けそうだ。とはいえ、これは天候上のこと。沖縄は梅雨明けで内地からの観光客で賑わっているようだが、実は沖縄こそ戦中戦後ずっと嫌な梅雨が続いている。


先月23日は慰霊の日。岸田の挨拶にはぶっ魂消た。字の通りで魂も何も感じない空疎で空虚。辺野古には触れず“私たちが享受している平和と繁栄は、命を落とされた方々の尊い犠牲と沖縄の歩んだ苦難の歴史の上にあります。沖縄の皆様には米軍基地の集中による大きな負担を担っていただいてます。政府としてこのことを重く受け止めています”。


「けっ!てなもんだ」。親爺が吐き捨てる。暗誦才能抜群の親爺もさすがに覚える気にはならないが酒の肴にと要旨をメモってたようだ。


「頑鉄」の午後3時。店内には年寄り二人と板場の吉野の3人のみ。ただし席の端には額に入った清水成駿の遺影が立てかけてあり、脇には陰膳に加賀の銘酒「菊姫・吟」が添えられている。仄かな香りが漂い爺いの間をすり抜けて行く。今日は7月4日。月命日である。


「最近は親が叱らないかも知れんが怒る国民が少なくなったなぁ。お上に対しては唯々諾々だもん。競馬会がお上かどうかは分からんが一昨日の『ラジオたんぱ賞』も酷かった。戸崎のレーベンスティールがG前で外に張り出し、松岡バルサムノートの進路妨害は明々白々。にも拘わらず審議ランプはなし。一緒に観てた横ちゃんも『⑽番の進路が狭くなった事象については後ほどパトロールフィルムを放映します。でチョンでしょ』と悟り気味に言ってたがそれすらなしで確定。グリーンチャンネルは競馬会所属だからMC二人が触れなかったのは仕方ないにしても民放も同じだったんだろうな。翌日のスポーツ紙も制裁金5万円を課せられた戸崎の『他馬に迷惑をかけて申し訳なかった』のコメントを載っけただけ。生前、清水さんが『裁決委員が着順を変更するほどの脚が有ったとか無かったとかを判断するのは傲慢で危険』と警鐘を鳴らしていたが、今や判断すらしない。『ザッツ』も音無し。情けないったらありゃしない」。親爺不満たらたらながら献杯酒のせいか舐めるようにチビチビ飲んでいる。お通しの枝豆だけは摘まんだが小田原の蒲鉾には箸を付けてない。


「辞めた俺が言うのもおかしいが、横山君が記事にできるだけの環境じゃないことは確か。『ザッツ』に限らず電波から紙までメディアは競馬会の“自家薬籠中の物”…に近いんじゃないの」。遠野も諦め気味に言い、山葵タップリの蒲鉾を食べた。喉から鼻に抜けたスッキリした辛さが心地良い。


「そうそう。横ちゃんが『香川照之の悪役振りは演技じゃなく地で行っただけ。大泉洋こそ本当の役者です』と怒っていたが、あの顛末は然もありなんだったな」
「確かに。そもそも俺も大泉の仰々しい演技にはわざとらしさを感じていたし」と遠野が応え二人して先月の会話を思い出していた。

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「大泉は20年ほど前から札幌では有名人でしたが2007年に『ハケンの品格』でフィーバー。翌年には『札幌記念』のプレゼンターに選ばれたでしょ。大泉は江別出身ですが札幌市民は大喜び。自分も生で見たくて爺…いや祖父にお願いして競馬場に連れて行ってもらったんです」


「構わん構わん。爺さんでも何でもいい。普段通りの方が信憑性と迫力があるから」。遠野が合いの手を入れた。


「はい。じぃじは知り合いに頼み『札幌馬主会』の役員席プレートを借りてくれまして。結果は典さん(横山典弘)のタスカータソルテが勝ってじぃじも大当たり。『行くぞ』と勇んで降りて行ったところ、すでに奴は1コーナー寄りのスタンドの階段にいまして。その周りを5~7人の男達が堅めしっかりガード。出待ちってんですかねぇ。待たされて機嫌が悪かったのか30人はいたファンの『大泉さ~ん』の声にもピクともせず無愛想な顔で真正面の壁を見てるだけ。自分もデジカメを向けると男の一人が『写真は撮らないで!撮影禁止』と言えば他の何人かが『これ以上近寄らないで』と。奴はムスッとしたまま。サインをねだったりする訳じゃないし、そんなに邪険にしなくても、と思いましてね」


その時の事が本当に悔しかったのだろう。横山もいつの間にか“大泉”が“奴”に変わっちまった。


「結局そのまんま?」。今度は親爺が「男山」を注ぎながら先を促す。
「奴の役者振りはここからです」と言って一気に酒を呷り飲み干した。


「あれだけ不機嫌だった男が『大泉洋さんの登場で~す』のアナウンスが流れるとさっさと広場まで降りてきて、スタンドの端からも姿が見える馬柵棒近くに来ると急に腰の曲げ曲げ歩きで口元も緩めニタニタと。本馬場に入るなり両手を高く挙げ顔はニッコニコ。一部始終を見ていたじぃじが『糞っ餓鬼が!邦彦!帰るぞ』と。今ならスタンドが大事で仕方ないかとも思えるのですが、あの変身は中学生の身にはショックでしたね」

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「それにしても世の中奇妙奇天烈だな。悪役は地の香川照之が市川中車としてテレビも新聞もセクハラは忘れたかの報道。広末と鳥羽なんちゃらの不倫で大騒ぎ。かと思えば岸田側近の木原官房副長官の不倫不義は知らん振り。ネタ元は同じ文春なのにだよ。元・警視総監の秦野章が<政治家に徳目を求めるのは八百屋で魚をくれというのに等しい>と嘆いていたが、今は野菜も魚も一緒くたで買える。でも徳目と倫理だけはスーパーでも売ってないからなぁ」


「あ、そうだ。これを忘れちゃいかん。マイナンバーの不手際続きに関して岸田は『コロナ対応並みの臨戦態勢で政府一丸となって取り組みます』と意気込んでいたが寝言は寝て言えだ。沖縄じゃあ感染者が激増。訳の分からん定点把握でも内地の50倍とも言われているのにコロナ対策は成功したとでも自惚れてるじゃないか。とのさんもそう思うだろ」


「有料検査になっても増え続けているのは不気味ではあるな。尤も、紙の保険証がなくなるのが先か国の姥捨て政策に協力するかどうかが問題でもあるけどな」と言って「フフッ」と苦笑いし、ふと横に目を遣ると二本の指で煙草を挟んでいる清水の笑顔が。改めて見直すと結構“かわいい”。

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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