台風接近で冷ややかな朝を迎えた30日の火曜日。“雨がひどくならなければ”の条件で「頑鉄」に顔を出す事を約した。我が儘ではある。また2ヶ月連続で処方箋の郵送を依頼するのも気が引けるし、ついでに新宿のクリニックにも午後3時の予約を取り付けた。
実は昨月曜日も暑さは収まっていたし、クリニックに行こうと思い電話したのだが、なかなか繋がらず、<休み明けでやはり忙しいんだ>と判断、7回の発信で諦めた。これは短気でも何でも無くクリニックへの配慮だ、と自分には言い聞かせている。ついでながら<案の定>というか29日月曜日は酷く混んでいたらしい。発熱外来が多かったのだ。聞くと発熱外来の4割超が“陽性”とか。一日延ばしたのは正解だった。
競馬班はだいたい火曜日が休日。遠野が来店することを横山に伝えると3時過ぎにはやってきたらしく、遠野が到着した時には親爺と二人「東スポ」と「週間・競馬ブック」を前に話し込んでいた。もちろん横山は立ち上がり「ご無沙汰しています。お顔を出して頂いて有り難うございます」と。
「おいおい。横ちゃんの店じゃあるまいし大仰な。はいご無沙汰。まぁ座んなよ」と応え、手で制した。見ると温かそうな焙じ茶といぶりがっこが置いてある。「清茶淡和か…」。遠野は先日親爺と話した時に感じた事を呟くと、耳聡い親爺が「せいちゃたんわ?」。さすがの親爺も聞き慣れなかった言葉のようだ。「いやいや失礼」と言い、漢字を書いた後、「簡単に言えば<酒を酌み交わして友達になるのは簡単だが、お茶だけで会話を楽しめるような仲に達するのは至難であり、これこそが親の友>ってこと。見ていて微笑ましいよ」
「有り難さん。でも、こっちは馬券の反省と勝因、敗因調べに今週の検討をしながら、とのさんを待っていただけのこと。とのさんが来ない時は酒だよ。まだ清茶検討の段階だな」「じゃあ、とりあえず俺も久し振りに焙じ茶を一杯もらおうか。で、今週の狙いは」と横山に顔を向ける。
「親方とも話していたのですが、いの一番は『札幌2歳S』のフェアエールングです。遠野さんに根拠をあれこれ言っても烏滸がましいのですが、屋根が丹内ってのが魅力で…」「確かに今年の丹内は乗れてるし、函館→札幌と結構、高配当を演出してるもんな」「特に信頼できるのがビッグレッドFの生産で馬主がラフィアンやコスモを含む俗に言う“マイネル軍団”の馬。丹内の集中力は半端ないと思います。驚いたのは今月14日の1勝クラス…」と言って身を乗り出した時に親爺が戻ってきて「洗心」とナムルとだだちゃ豆を置き「今、吉野が刺し身を用意してるから。秋刀魚が旨いぞ」と言い座り込んだ。
意気込んでいた横山は話の腰を折られた態でだだちゃ豆に手を伸ばした。「そうそう、この間横ちゃんに聞いたんだけど、3週前の札幌で馬連②③が3万4600円で馬単の③②が2万え~と8,900円てのがあったらしいぞ」「そうなんです。僕が強調したいのはそこなんです。勝ったのが丹内の“コスモ”。これこそ丹内=マイネルの真骨頂だと」
「なるほど。じゃあご高説に乗ろう」と頷きながら「洗心」をグビッと飲み「やっぱり旨い」と洩らした後「昔…。10年以上前だったか、どこかの最終Rで同じようなことがあってな。馬連が9000円台で馬単が5000円台。<おかしい。逆計算じゃないか>と感じ、すぐに競馬会に問い合わせたよ。最初は“ありえない”の一点張りだったがいろんなケースを仮定して食い下がると『調べてみます』と応えてくれてな」
聞いてた横山はグラスを持ったまま固まり、親爺は「俺も聞いてねぇぞ」。二人して次を促す。「一時間後ぐらいかな返事が返ってきて『15時ごろ山梨で馬単の大量買いがありました』と。『お手間取らせまして申し訳ありません。了解しました』『いえいえ疑問があればいつでもどうぞ』でおしまい!」
「間違っていたとしても、まさか競馬会が『実は~』なんて認めることはないでしょうが、我々は疑うことから始めるのが仕事。沈黙してたら権力者の思う壺ですよね」と横山。<なぁ~んだ>と拍子抜けするのかと思っていたら予期せぬ立派な言葉が返ってきてビックリだ。
「そのデンで言えば岸田のコロナ感染も眉唾もんだな。文科省の下村じゃあるまいし“不作為”でコロナの蔓延を許し、熊本の後援会長が『日韓トンネル推進会議』の議長を務め、新閣僚も『統一教会』との濃厚接触者がゾロゾロ。安倍の国葬についても反対論が続出。普通なら記者会見を開いて“しっかり”説明しなくてはならんのにリモートでお茶を濁す始末。感染しなかったら甘利のように“睡眠障害”かなんかで入院してたり…」
「仮に本当に感染していたとしても“この通り。軽症ですから行動制限はしません”とのアピールになり、だから外国からの入国も2万人から5万人に増やしました、と。火に油とは言わんが薪をくべるような結果にならん事を祈るしかない」。親爺が溜め息をつく。
「コロナはクーラー不使用で換気ができる季節になれば少しは減るかも知れませんが、問題は、やはり『統一教会』でしょ。『霊感商法対策検討会』が役立たずじゃないけど、それ以上に『統一教会』の団体名変更を誰がどんな形で認めたかを解明するのが先でしょ。不作為で訴えられる、なんて役人や下村はほざいていましたが、裁判すればいいだけの話。例え国が負けても裁判になれば『統一教会』=『平和連合』が世間に知れ渡る訳ですし。ここまで染みこんだどこにあるか、誰の責任かをハッキリすべきだと思います」
原因が
今日の横山は人が違ったみたいに熱が籠もっていて能弁だ。「いい事を言うねぇ。もしかして知り合いが騙された?」「遠野さんにはかないません。高校時代の友人が洗脳寸前までいきまして…。あの銃撃事件で目が醒めたとか」
うんうんと頷いていた親爺が突如発言した。「原因があって結果がある。競馬も然り。だから今日もとのさんが来るまでお茶を啜りながら検討してたんだよ」
源田威一郎
GENDA ICHIRO
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。