鮫島克駿騎手といえば、最内を突いて着順を押し上げる「イン突き」が代名詞の騎手として知られています。しかし、近年はその騎乗スタイルに少しずつ変化が見え始めています。
今年の大阪杯では、ジャスティンパレスに騎乗。勝ったベラジオオペラのすぐ後ろで脚を溜めていれば3着くらいあったかもしれません。それでも、向正面で早めに外に出す競馬を選びました。
一見すると理解しがたい騎乗ではありますが、鞍上の感覚として、以前より馬の反応が鈍くなっていることを感じていたのかもしれません。「インでジッとしているだけでは勝てない」と判断したうえでの選択だったとも考えられます。
そして先週の天皇賞・春でも、その姿勢は貫かれていました。3コーナーの坂下から動くロングスパートの競馬。結果は6着に終わり、SNS上で多くの話題を集める結果となりました。待つのではなく、自ら動いて勝ちにいくというのが今の鮫島騎手のスタイルなのかもしれません。
その騎手としての“勝負への姿勢”が最も強く表れていたのが、昨年のヴィクトリアマイルです。
このレースでは、短期免許の取得要件としてGⅠ2勝をノルマに来日していたモレイラ騎手が1番人気のマスクトディーヴァに騎乗していました。モレイラ騎手は桜花賞で勝利し、リーチをかけて臨んだ一戦でしたが、直線では進路がなく、内に切り替えて何とか3着に届いたという内容でした。
その進路を塞いでいたのが、11番人気のドゥアイズに騎乗していた鮫島騎手です。
モレイラ騎手が外に出したかったところを、鮫島騎手が外からフタをするように動き、進路を主張しました。この一件で制裁を受けたのは、強引に進路をこじ開けようとしたモレイラ騎手のほうであり、JRAも「被害馬:ドゥアイズ」と公式に見解を示しています。
この騎乗から、鮫島騎手がどんな立場でもフェアに、かつ勝負に厳しく挑むタイプの騎手であることが伝わってきます。そして、もし自分がGⅠの主役となり、1番人気の立場であっても、同じように進路を塞がれても文句は言えない。それが競馬であり、騎手としての覚悟なのだと思います。
だからこそ、鮫島騎手はインでじっとして他力本願に展開を待つのではなく、自ら仕掛けていく競馬を選んでいるのかもしれません。その姿勢は、どんな状況でも勝ちに行こうとする強い意志の表れであり、勝負に対する厳しさは見上げたものだと思います。
しかし一方で、その潔い姿勢が自らの首を絞めてしまっているようにも感じられます。結果に結びつかない強気の騎乗が続けば、評価よりも疑念が先に立つこともあるでしょう。展開任せにせず勝利を掴みにいく姿勢は立派ですが、今のそのスタイルが、かえってGⅠ制覇を遠ざけてしまっているようにも映るのです。
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樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。