競馬JAPAN

協力:
  • Googleログイン
  • ログイン
  • 無料会員登録
  1. 心地好い居酒屋:第20話
  2. RSSフィード ツイッター YouTube はてなブックマーク

馬券に直結!週末予想コンテンツ

スッパ抜き本舗競馬ウィキリークス 秋競馬も、この馬の登場でいよいよ盛り上がってくるはずだ。神戸新聞杯に出走する...
続きを読む

ちょっとブレイク♪競馬周辺小説

居心地の好い居酒屋 遠野が約束より早く「頑鉄」に着くと、親爺は縁台で煙草を吸っていたが、すぐ...
続きを読む

【PR】競馬JAPANブログ開設!

競馬JAPANブログ競馬JAPAN編集部が、アナタの現場力を3倍高めるブログがついに始動! ...
続きを読む

【PR】岡田牧雄の一口馬主クラブ

ノルマンディ―岡田牧雄の所属馬・生産馬情報も配信!特典満載の¥0メール会員募集中! ...
続きを読む

競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年05月24日(水)更新

心地好い居酒屋:第20話

「三夏の候」―。日本には昔から便利な言葉がある。立夏~立秋までの初夏、仲夏、晩夏。夏すべてに使える季語である。従って昨今の猛暑や、あるいは連休明けの寒さを感じる時でも、例えば挨拶状など「三夏の候、いかがお過ごしですか…」なんて書いても一向に違和感はなく、失礼でもなかったのだが…。現在ではメールやラインで即効だから、手紙なんて必要なし。その日の天気もすぐに分かっちゃう。あやふやな言葉はむしろ迷惑このうえないのかもしれない。

それにしても、朝晩はともかく日々の温度差がひどい。昨日(21日)のオークスも30度を超す炎天下での開催。おかげで「頑鉄」の親爺、なんでも急遽狙い馬を変えたらしい。

遠野が「頑鉄」の前にたどり着いたのはのは翌22日の6時ジャスト。まだまだ暑気は消えないものの、“薫風”と呼ぶにふさわしい爽やかな風が心地よい。親爺は縁台に座り両切りピースを吸っていたのだが、遠野の顔を見るなり灰皿で揉み消した。「おいおい、気にしないでよ」。遠野が声をかけると「いや、そうじゃなくて、あんまり旨くないし…」。確かに元気がない。「聞いてくれよ。昨日も暑かったろ。で、バテてる馬もいて、大荒れになるんじゃないかと思って」「人気のソウルスターリングを軸にしなかった?」。隣に腰を下ろしながら遠野が先回りした。

「そうなんだ。最初は素直に社台のソウルから買おうと思っていただけに残念でね。こんなこと、とのさんにしか愚痴れないしな。それに…」と言いつつ口ごもった。「何?ほら勿体ぶらないで」と遠野が促すと「笑わないでよ」と釘を刺した後「ミスパンテールの馬主(寺田千代乃)が高野連の女性理事になったろ。運気が強いんじゃないかと」。ハゲ頭をかきながら白状した。

「なるほどなるほど」冷やかし気味に頷き「親爺ともあろう者がキャリア3戦の1勝馬を軸にするとはね。ま、何が来るか分からないのが競馬。たまには、そんな買い方もいいんじゃない。それに俺だってダービーは大穴で、その女性理事のマイスタイルを押さえようと思ってるんだから」と、一応慰めたが、親爺は「連中には内緒だよ」と人差し指を口に当てた。よほど悔しくて恥ずかしかったのだろう。暑さにバテたのは、どうやら親爺の頭のようだ。

そこへ『ザッツ』の連中が到着し、遠野を先頭に店に入っていった。最後尾からついてきた親爺は、そのままカウンターに行き、板前に声をかけ、料理の進み具合を確認した後、「今日の酒は『澤乃井』でいいかな」と言い保冷ボックスから大吟醸の一升瓶を取り出しデキャンタに移した。「珍しいな」と遠野がつぶやくと「たまには東京の酒もいいだろ。なんと言っても今週は東京優駿(ダービー)だし…」。凄いこじつけだが、気分転換と験担ぎで“ダービー必勝”の思いは伝わる。もっとも「澤乃井」は奥多摩の仕込み水に定評があり、旨い酒であることは間違いない。後はいつものビールと焼酎のボトルだ。

酒の準備が整ったのを見計らったかのようなタイミングでイカのリング揚げとゴボウのサラダにコチの薄造りが運ばれてきた。他の客は居ないし、もちろん親爺も座り込んで、乾杯の真似事をして酒宴は始まった。

「ところでダービーは何から買う?清水さんが居れば予想通りでいいんだけどなあ」。親爺は寂し気にため息をつく。遠野も昨年を振り返った。闘病中で「東スポ」も休み休みの掲載だったが、ダービ―の記事というか予想は気迫、いや鬼迫が滲み出ていた。いわく<疾風のように現れて、疾風のように去っていくのが今の当方。であれば、年に一度のダービーくらい、当方としても疾風のように現れねばなるまい……勝率100%。渾身の鞭を振るった…>。その結果がマカヒキ頭の馬単勝負だった。心酔しきっていた親爺は初めて馬連ではなく馬単③⑧1420円を買っていた。

「そうだなあ。清水さんは、いつも『皐月賞の上がりタイムを重視しろ』と言ってたけど、そのデンでいけば34秒0をマークしたレイデオロじゃないか」「とのさんはレイデオロから?」「ああ、その積もり。後は前残りの大穴でクリンチャーとさっきも言ったマイスタイルを少々…」。珍しく遠野が自ら馬券の話をした。昨年の有馬記念以来になる。

競馬の話題なら、とばかりに横山が身を乗り出し「馬主がらみでも」と口にした時、梶谷が「このイカすっごく美味しい!作り方教えて下さい」と。親爺ニコッと笑い「イカを輪切りにして…」と説明を始めたが板前と目が合ったのか「お~い。吉野よぉ、おまさちゃんにリング揚げ教えてやってくれ」と声をかけた。梶谷はグラス片手にカウンターに移動した。

話の腰を折られた形になった横山は新しい焼酎のロックを作り始めた。替わって親爺が口を開いた。「アルアインのサンデーRもレイデオロのキャロットFも大元は一緒だろ。皐月賞は②③着もそうだよな!横ちゃん」。待ってましたとばかりに「そんなところです。だから勘ぐれば皐月賞は、休み明けのレイデオロは無理はさせなかったとも言えます。大本番はやはり見逃せない1頭ですね」。発言の機会を得て嬉しそうだ。

少しづつ盛り上がってきたところに、仲居と一緒に調理法を聞いた梶谷が料理を持って席に戻った。小鉢の中身はどうやらカツオの煮物のようだ。親爺「ダービーのためのサービス」と言う。遠野はニヤリとし黙って親爺の続きを待った。

「昔からカツオは勝つ男に通じるということで侍も喜んで食べたもんなんだよ。かの芭蕉も<鎌倉を 生きて出でけん 初鰹>と詠んでるほどでね」

親爺はどんな馬券を買い、どんな結果が待っているのか。初鰹にはチト遅いが、な~に「三夏の候」だ。許される範囲だろう。ここは“勝つ男”になることを祈ろう。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。