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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年05月07日(日)更新

心地好い居酒屋:第19話

連休中も「頑鉄」はカレンダー通りで5月の1、2日は営業とか。21日の飲み会後にそれを知った遠野は珍しく自分から井尻に連絡した。「どうせ店は暇だろうし禁煙デー創設の感謝を込めて1日の月曜日に行こうと思ってるんだが…。とりあえず5時に2人でっていうのは」と。井尻は美人秘書の意味深な発言が気になっていたことだし、遠野の話を聞けるのは願ったり叶ったりで「じゃあ自分が予約しておきます」。

5月1日。昼間の東京は、まさに一天俄に掻き曇りってやつで、驟雨に見舞われたが、遠野が築地に着いた時は西日がまぶしいほどの好天で爽やかな風が吹き抜けていた。汚れた空気も雨で洗い流された感じだ。

地下鉄駅から新大橋通り沿いを歩き、左に曲がると「頑鉄」だが、その「頑鉄」の庇の下に置かれた縁台に人がいた。近づいてみると井尻だ。いつものマルボロだろう。吸い込んだ煙をふうっ~と吹き上げている。

「旨そうだなあ」。遠野が声をかけると、狼狽えたように揉み消そうとした。「そのまま、そのまま」と手で制し、続けて「悪いなぁ。俺のせいで不自由な思いをさせて」と言いながら風上に座った。「いえ、そんなこと。いい天気で、風も気持ち良くて、改めて煙草の旨さを感じました。あ、いえ遠野さんには申し訳ないですけど…」「俺は大丈夫だよ。気にしないで吸ってくれ」。

そんな遣り取りが聞こえたのか、ドアがあき、親父が顔を覗かせた。2人の様子を窺うとニヤリと笑い、ポケットから青い箱を取り出しながら、風下に行き、両切りのピースに火を点けた。「とのさんのショートホープ姿が懐かしいよ。ほら、去年の暮れに清水さんの墓参りの帰りに寺で吸っただろ。店じゃほとんど吸わないし、まさかあれが最後の煙草姿になるとはね。サマになっていたけどなぁ」と言いながら煙を吐いたが「ごめんごめん。余計なこと言っちゃって。寝た子を起こしちゃいけないよね」。親父は恐縮の態でハゲ頭をかく。

「なぁ~に構わないさ。今も井尻と話していたんだけど、謝るのは俺の方さ。俺のせいで皆に迷惑かけて」と頭を下げながら「ところで一ヶ月やってみて営業の方はどうだった?」「まだ分かんないけど、大したことはないと思うよ。売り上げより、とのさんが来てくれると『ザッツ』の連中や知り合いが顔を出す機会も増えるから、むしろ俺としては楽しいよ」。満更、お世辞でもなさそうだし、遠野は2人に感謝しつつ「入ろうか」と店を指さした。

この1、2日の「頑鉄」は仲居と若い板前を休ませ親父と(清水が初めて来た日に心付けを渡した)古い職人のみの営業。経費か従業員の慰労かは定かでないが、これなら客としての遠野も気楽ではある。2人が着席すると、親父がお通し=ひじきの炒め煮=を運んできた。酒は珍しく長野の「真澄」。これは去年4月に遠野が諏訪大社の<御柱祭>見物に行った時に飲んだ酒だ。親父なかなか洒落ている。 

「甘方について言っておきたいのは無防備で飛び込むなってことだ。あいつは仕事ができて、自分に従順な奴の面倒はみる。引き上げようとする。今のお前の立場だ。だから理不尽なことじゃない限り指示に従っていればいい」。

遠野は井尻にビールを注ぎながら説明を続けた。「甘方は山田の存在が脅威だったんだろ。上に見る目があれば抜擢される可能性はあったからな。現に今じゃ『週間潮春』の契約記者としてエース級らしいじゃないか」「能力があり過ぎたってことですか」「そうだな。能力はあるけど野心と甘方に対しての従順さがなかったからな。むしろ反発していたと思うぞ」。

井尻は思い当たるフシもあるみたいで、下を向き黙ってひじきの中の大豆をつまんでいる。

阿部秘書が<人に依頼する者は…>うんぬんと言ってたろ。あのタイミングでの言葉は微妙だな。俺には別部は言わずもがなで、甘方のことも多少皮肉ってるように聞こえたけどな」。遠野は思った。例の結婚式と広告で完全に有村に取り込まれたみたいだな…と。もっともそれだけ広告収入が減ってきて「甘庶処」に依存する比率も高くなり、自分の手柄にしたいのだろう。

この際だから忠告しておくか、と覚悟を決めた遠野が「あのなぁ…」と言いかけた時、親父がキスとカツオの刺身を持ってきて、「今、アサリの酒蒸しと白蝦のかき揚げやってるから」と言い、グラスか片手にそのまま座り込んだ。

「信じられんだろうが、あいつは昔から、ボイスレコーダーを忍ばせ取材じゃなく社内会話を録音していたんだ。卑劣極まりない行為で、これまで誰にも言わなかったけど、そういう人間だってことをお前は知ってていいと思って。唸り飛ばしたら『遠野さんにお聞かせしょうと思って』なんて弁解してたけどな」。

「財務省相手の籠池氏なんてかわいらしく感じますね」「あの男は自己防衛だしな。いろいろあったけど俺が甘方を最終的に見限ったのはあれが決め手だったと言っていい」。遠くを見るような懐かしむような目になっていた。

「有り難うございます。頭に入れておきます」「他言無用だぞ」「分かってます。でも…今の局長はマメで部下の面倒も見てるし人気ありますからねぇ」「それはそれでいい。お前さえ本質が分かっていればな。いずれにせよ今後の人事と紙面が楽しみになったよ」。

黙って話を聞いていた親父、ポンと膝を打ち「善悪同居するのが人間ていうもんよ」。おどけて啖呵を切った。「おっ。鬼平の名台詞がでたな」と遠野が声をかけると「とのさんがいつも言ってるじゃねぇか」と言いながら、出来上がったらしい、かき揚げとアサリの酒蒸しを取りに板場に向かった。

「親父の言う通りだ。鬼平曰く『悪事を働いた奴は悪逆の臭いから一時でもはなれたい。そこで人並みにいいことをしたくなるものだよ。それで胸の中がいささか慰められる』ってな」。

そこへ刈田を筆頭に「ザッツ」勢が3人、続いてたま~に顔を出す中年の男女が入ってきて、親父の「らっしゃい」の声が元気よく響いた。昨日の天皇賞、贔屓のキタサンブラックが勝ったせいもあって今日の親父は会った時から機嫌がいい。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。