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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年04月24日(月)更新

心地好い居酒屋:第18話

前々から頼まれていたことではあるが、頼まれた遠野自身も楽しみにしていた「完庶処」の才色兼備秘書との会食が遂に実現することとなった。

親爺の独断で4月から毎週金曜日~月曜日は禁煙デーとした。それもこれも遠野の身体を思い遣ってのことだが、そんな事情を知っているのは遠野本人と井尻のみ。遠野は火~木曜日は行けないし、月曜日はTMCの連中がくる可能性がある。金曜日は秘書の商売柄、なかなか早く帰れないし、当分無理だな、と思っていたのだが、図らずも21日の金曜日に秘書の身体が空いたのだ。

阿部秘書→梶谷→井尻によると、「完庶処」のオーナー家族の誕生会らしい。遠野は〝今時家族で誕生会なんて珍しいな〟とは思いつつ、やや微笑ましさを感じた。

6時ジャストに「頑鉄」を覗くと、他に客はいなくて、奥の小上がりにはすでに3人が着席。足を土間につけて座った親爺も加わって焙じ茶の芳しさを楽しみ、何やら話しこんでいる。初対面の娘(こ)はいるが、年上の特権で「よぉ」と手を挙げると、全員が頭を下げ、秘書が「初めまして…」といいかけたところに「挨拶は後で…。さ、奥へ」との井尻の言葉に甘え指定席に腰を落ち着けた。

正面は秘書だ。親爺を含め紹介は済んでいるだろうし、隣に座った井尻が口を開く前に「初めまして。遠野です。よろしく」。すると、秘書はあらかじめ用意していたのだろう「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。阿部と申します。今後ともよろしくお願いいたします」と、名刺を差し出した。そこには「株式会社・完庶 総務部 阿部 京子」と書かれてある。

遠野の描いていた容姿、風貌とは違っていた。梶谷のようにキリッとした美型をイメージしてたのだが、こちらは細面で目元パッチリ。美型といえば美型だし、愛嬌のある可愛い型にも見える。これまでの話から判断して芯の強い娘なのだろうが、見た目は女性の弱々しさを漂わせている。

梶谷の説明では親の仕事の関係で中学までは海外暮らしだから英語はペラペラ。高校には帰国子女として入学。そのままエスカレーターで大学へ。卒業と同時に大手銀行入行。育ちも良さそうで経歴も文句なし。これじゃあ“薩摩隼人”の社長が信頼し重宝するのも無理はない。

顔合わせが終わったところへ、親爺自らがお通しを運んできた。今日は荀とうどの味噌和えだ。酒は遠野が来る前に注文をしていたのか、親爺が気を利かせたのか瓶ビールに「洗心」。冷酒用のグラスは4つある。それぞれに酒が行き渡ったところで「よろしく」と言って乾杯、酒宴が始まった。話題の先陣を切ったのは梶谷だ。

「阿部さんちの社長が家庭的なことは聞いてたけど…。この年で誕生会とはねぇ」「毎年のことだから別に驚かないけど、今日はお嬢さんのご主人のっていうのだから、私も知らなかったしビックリよ」。阿部が「洗心」をグイッと飲み答える。

一同「えっ娘婿の!」。井尻なんて摘まんだ荀を落とすほどの驚きようだ。

「まぁそういう家庭的なところが従業員からも慕われている理由かもね。あ、私的な誕生会の話は一般社員は知らないので、そこんところはよろしく」。くだけた口調になってきた。

「ところで〝梶〟の会社は組織改編とかで甘方さんが編集局長だってね。この間、挨拶にきたわよ。一緒にきた別部さんが『役員一歩手前です』って摺ってたけど」。持ってた箸の頭を左手で押さえて右手で回す。

「局長の様子はどうでした?」と丁寧な口調で井尻が訊く。甘方とタメの立場にいる阿部に気を遣っている。

「そうですね。否定も肯定もしませでしたが、満更でもなさそうでしたよ」。井尻は〝やっぱり〟って感じだ。悩んでいるような井尻を見た阿部は「うふっ」と笑い「人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諂(へつら)うものなり。―<学問のすすめ>―より>なんてね、梶!」。

「そうそう。銀行にもいろんなのが居たっけね」と梶谷が相槌を打つ。どっちが男で年上か分かったもんじゃない。

そこへ刺身の盛り合わせが届いた。親爺は「洗心」を梶谷と阿部に注ぎながら「今、おまさちゃんと京子ちゃん用に鯛の桜葉蒸しやってるから」と言い「とのさんと井尻さんには鰈の煮付けね」。スラッと「京子ちゃん」と出るところが親爺の親爺たるゆえんだ。

遠野はいきなり京子ちゃんとは呼べず「じゃあ゛上交は諂(へつら)わず、下交は驕らず〟って言葉もあるけど阿部さんから見て甘方と別部はどう思う?」。酒がすすんだせいか遠野が尋ねた。

「そんなぁ。よその会社の人の評価は無理。ただ、甘方さんは人前で必要以上に威張ってはいませんでした。あ、それから今後もご一緒させて頂きたいので、おじさんみたいに〝京子ちゃん〟でお願いします」と言って頭を下げた。

〝人前で〟がミソで、うまくはぐらかされてしまった。耳を傾けていた井尻は拍子抜けの態で瓶ビールのお替りを頼みながら、「洗心」を持ち上げ梶谷と阿部に注ぐ。阿部は度数の高い焼酎を飲み慣れているせいか、冷酒のピッチが早い。いや飲み干した後、小さく「ふぅ~」と洩らしているところをみると、どうやら度数は関係なく「洗心」の味を堪能しているようだ。

「梶さぁ。銀行には勘違い人間が一杯いたよね。ほら、強引に飲み会に誘っていながら、『奢ってやる』とか、礼儀と阿諛の区別も分かんない奴とか…」。「そんなこんなでお互い辞めたんでしょ」と梶谷が返したところに再び親爺が登場。

「お待たせ。極上の鯛の桜葉蒸しだよ」と言いテーブルに置き、自分も梶谷の隣にちょこんと腰を下ろした。

「わぁ綺麗。もしかして明石の桜鯛ですか?」。阿部が箸をつける前に親爺の方を向く。「へへっ。さすが、おまさちゃんの友達!ありがとうございます」。嬉しそうに頭を叩いた。

「そりゃあ親爺が『極上です』と自慢すりゃ、商売柄、阿…いや京子ちゃんもピンとくるさ」とは遠野。井尻は相変わらずおとなしい。「ついでに言わせていただければ、桜鯛の旨いのも今年はこれで最後かな。桜が散ってしまう頃には桜鯛も産卵を終えて味も落ちるからねぇ」と親爺が真面目に解説を加えた。

甘方論については後日になりそうだ。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。