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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年02月07日(火)更新

心地好い居酒屋:第15話

1月10日の電話は体調の中間報告の積りだけだったのだが、親爺との話の〝流れ〟で、やむなく23日の出勤(頑鉄)を約束した遠野。

行けば行ったで楽しかったし、何よりも皆が喜んでくれたのが嬉しかった。ただし今年初めての酒とあって疲れたのは確かで「若くて綺麗な子がいると酒も進むなぁ。年寄りは酔っぱらったよ。申し訳ないが」と詫びて1時間ほどで中座させてもらった。

井尻の周りは「えぇ~。8時前ですよ」。声を上げたが事情を知っている親爺は引き止めもせず「気を付けてよ」と靴を揃えてくれた。

それを見た井尻は「俺、見送りがてら車拾いに行ってくるから」と言い置き、ついて来た。

「何か失礼なことがありました?」。不安気だ。

「別に…。ちょっと風邪気味でな。それより横山って奴に謝っておいてな。折角の月曜日にあまり競馬の話ができなかったし、また機会を作るからって。そうそう、お嬢にもよろしく」

「その話を聞けば横山大喜びですよ。それはそれでお願いしますが、今度は来月3日の金曜日にお会いできますか?」

「そうだな。その頃には体調も回復してると思う。いや、治さないと」

「雅子を連れて行くことになると思いますが…」。井尻が何か続けたそうな時に空車が来た。

「分かった分かった。じゃあ俺はここで」。手を挙げて乗り込んだ。

遠野が3日の6時半過ぎに「頑鉄」に行くと、一番手前の窓側に二人の客が。ここ1年ほどの客で、口をきいたことはないが顔見知りでもあり、目礼を交わして奥の席へ。すでに梶谷、井尻の順で奥の席に座り、ダベりながらお茶を飲んでいた。

「お待たせ」と言いながら壁側の真ん中に腰を下ろした。すぐに親爺と仲居がお通しを持ってきた。なんと2品ある。

イカ大根と微塵切りした油揚げと人参、それに大豆を加えたひじきの煮物だ。

「どうしたの2品なんて!増して今年のイカは高いんだろ」「ヘヘっ。それを言っちゃあおしめぇよ」。芝居がかった口調で親爺が答えた。

「イカの価値と味の分かる人の予約があったし…それに今日は節分だろ。撒かれては困るけど、ひじきにはいつもより多く豆を入れておいたんだ」。親爺が得意気な顔で説明した。

その気遣いもさることながら、まだまだ昨年までの〝懐石お通し〟にはチョッピリ未練があるみたい。

「ビールはいいから、とりあえず『洗心』持って来て。魚のお奨めは?」。遠野が訊く。

「刺身ならカワハギだね。後はブリで…。冷酒なら鍋の方が温まるし、養殖だけど脂がのっているから昆布だしのしゃぶしゃぶで食うと旨いよ」

「じゃあそれで。肝皿は3枚ね」

注文が終わった所で梶谷が口を開いた。「先日はお話もできず申し訳ありません。昨年のお酒のお礼も言わずじまいで…」。頭を下げた。

「あんなに珍しくて美味しいお酒初めてです」。恐らくスマホか何かで「得月」がどんな酒かを調べたのだろう。

遠野は手を振りながら「あれは親爺の奢りだからほっとけばいいよ。そんなことより何か話でも?」。

遠野の逆襲に一瞬、たじろいだ風だったが「一度、『完庶処』の阿部さんをお連れして遠野さんとご一緒させていただいてよろしいでしょうか。お店や魚にお酒。それに高兄いと親方、遠野さんの話をしたら『是非お邪魔してお会いしたい』と言われまして」。

そこへ「洗心」の4合瓶が運ばれてきた。梶谷は江戸切子の大きめなカップに遠野、井尻、そして手酌で自分に注いだ。

「ごめん!親爺にも注いでやって。親爺カップ持ってちょっとだけ来てよ」。親爺に否はない。いそいそやってきて注いでもらうと「献杯ですか?」と。

「うん。明日が月命日だもんな」。遠野の発声で清水への「献杯」。全員が一気に冷酒を飲み干した。

「俺ごときが梶谷クンの役に立つならいつでも。俺だって阿吽の呼吸の秘書がどんな人かも知りたいしね」。

理解してるかどうか不明だが「ふんふん」と頷いていた親爺が突然「この4人で梶谷クンはないよ。堅苦しい。そうだ!」と膝を打つや「〝おまさ〟ちゃんでいこう」。

遠野には親爺の意図は読めた。鬼平の密偵・おまさを連想したようだ。確かにそう言われれば美人で瓜実顔のおちょぼ口は若い頃の梶芽衣子・おまさに似てなくもない。こういう閃きは親爺ホントに得意だ。

呼び名が決まった所にカワハギの刺身と薄く切ったブリ、それにお湯の入った鍋が運ばれてきた。

早速、肝を醤油で溶きカワハギを食べる。シャキッとした感触に肝が絡まる。噛み砕いて喉を通るころ冷酒と一緒に流しこむ。表現のしようのない美味しさだ。

思わずグルメ評論家やレポーターは、どんな言葉を発するのか知りたくなる。ブリしゃぶがこれまた冷酒に合う。熱湯にさらっとつけ、脂身の白が赤くなったらOK。ポン酢のタレがなくても甘さが口に広がる。

身体が火照ってきて上着を脱いだのを見計らって、つまり゛まだ時間がある〟と判断したのか井尻が「実は」と切り出した。

「統括に関して厳しい分析をされていましたが、社内の評価は上々で自分にも偏見はないようで…どう接したらいいのかなと」

「馬鹿だねぇお前も。良くしてくれるんなら甘えりゃいいじゃん。別に何かを無理強いしてる訳じゃあないんだろ。あいつも゛井尻はできる〟と踏んでるから重用し、重用した方が得だからな」

半年前の不満はどこへやらで、遠野にすれば「やれやれ」だ。

「甘方がケツを割らず今のまま順調に出世するんなら、お前も黙って付いていけばいい。ただし、不正は論外で甘方に弱みは握られないようにしろよ。いつ、誰とでも喧嘩できるよう仕事をこなし論理と身辺をしっかりしていれば怖いもんはないから」

そこまで言って゛おまさ〟ちゃんを見た。黙って酒を飲み、カワハギを食べてはいるが

内心は〝高兄いしっかりしなさい〟との表情ではあった。

「井尻にだから俺も偉そうに言えるけど博覧強記ってのは博覧にして強記であって、甘方の場合は博聞にして強記だ。似たような意味だがチョイ違う。調べりゃ分かるだろ。あいつの強記はすごいぞ」


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。