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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年01月25日(水)更新

心地好い居酒屋:第14話

「また連絡するよ。親爺も気を付けてな」と言って電話を切った遠野。

それを受けた「頑鉄」の親爺。もちろん何をしても手がつかないほど、心配はしたのだが、それでも「また連絡するよ」にはそれなりの理由もあるはずだし、自ら状況伺いの電話はしない。そこが親爺のいいところでもある。

遠野とて親爺の心情は分かっている積もりだけに、早めを心がけ成人の日を含んだ連休明けの10日には一応の電話を入れた。

「炎症はなくなったみたいだし、後は熱が下がるのを待つのみ。息苦しさも多少は緩和されたよ。新年早々心配かけてごめんな」

「いやいや驚いたよ。いきなりの肺炎だもんなぁ。そのうえ『また連絡するよ』でピーピーピーだろ」。返事を待たずに電話を切った恨み節である。

「だからさ、ほらメドがついたからイの一番に報告したってわけ」

「何だかチョロまかされた感じだけど、大丈夫なの?」

取りあえず、親爺に中間報告だけの予定だったが、話しているうちに流れで、

「ああ。来週(16日)はともかく23日には行けそうだよ。連中に伝えといて。あ、肺炎のことは内緒ね」

「あったり前でしょ。それにしてもとのさんも律儀だねぇ。別にそんなに無理して月曜日にこだわらなくても、俺にすれば都合のいい時に顔を出してくれれば満足なんだけどね」。

やっと親爺の口ぶりが和やかになった。

遠野が例によって親爺と並んで「頑鉄」のカウンターに腰を降ろしたのは23日の午後5時チョイ過ぎ。

早いのは早いのだが、連中がくる前に親爺も事情を知りたいみたいだし、顛末を伝えておかなくてはと思ったからだ。

「ビール?酒にする?」を制し「暑っついお茶を。酒と食いもんは連中が来てからにするわ。親爺は気にしないでどうぞ熱燗を」。

怪訝な表情に変わった親爺に向け「今はまだリハビリ中。そんなに飲む積りもないし飲めないからね。連中がくる前に仕上がる訳にはいかんしょ」。

「そこまで考えてるんだ」。改めて感心した風だが「いやいや。てめぇの身体を労っているだけだよ」と手を振る。

暮れの19日以降から大晦日、正月5日までの状態を説明すると「うんうん」と頷いて聞いていた親爺が「清水さんが夢に出てきたのは当然といえば当然だね」と納得の態。

「それにしても、とのさんの医者嫌いも徹底してるね」と言いながら熱燗をグビリ。

「それを言うなら〝医者不信〟。腕は似たり寄ったりだし自分が信頼できさえすればいいんでね。そんな医者が少なくなった気がするんだ」。

5時半を過ぎると徐々に客も入ってきて、井尻一行が到着したのは約束より10分早い5時50分―。

「すみません。お待たせしました」と言いながらいつもの席へ。遠野も「よう!」と手を挙げ「挨拶は後で」で、席に向かった。

全員が席に着いたところで井尻一行5人が遠野に〝明けましておめでとうございます〟と頭を下げたが、頭を上げるやいなや、すかさず横山なる男が「先日は課長が畏敬する大先輩とは露知らず大変失礼しました」と。

昨年カウンターで遠野と井尻が話しこんでいる時に、井尻を呼んだ非礼を詫びたようだ。そのためにとりあえず〝月曜日〟に固執してた感がなくもない。

「横山クンだったかな。別に気にしてないよ。ただし、ああいうケースでは井尻の相手が誰だろうと、声をかけるのは控えた方がいいと思うよ」。

やんわり注意して「そんなことより飲もう。皆はまずはビールでいいな。俺は千寿の熱燗を」。遠野が仲居に注文すると例の女性が「私もお酒でお願いします」と。

井尻が無視していたので慌てたのは刈田で「紹介が遅れて申し訳ありません。今年経理に入った…」

「梶谷雅子と申します。よろしくお願いします」。まさに初対面って感じの自己紹介をした。

「遠野です。よろしく。で、君は?」と話を逸らすように隅っこにいたもう一人の男に声をかけた。

「すみません。下川と申します」。一同の名前が分かった頃会いを見計らっていたのか、タイミングよく親爺自らがお通しを持ってきた。「あ、ここの親爺さん」とは刈田だ。

親爺ニコニコしながら「若くて可愛い子がいるとやはり見てても楽しいね。<万緑叢中紅一点>ってね」。自分も仲間に入りたそうだ。

すかさず刈田が「良かったらどうぞ」と誘い、「この子は」と言いかけた時に「梶谷雅子です。よろしく」とニッコリ笑った。

これまた初対面の風を装い、お通しを見て「わぁ綺麗!美味しそう」。感嘆の声をあげる。

遠野もつられて目をやると〝漆黒〟とはこんな色と輝きかと思わせる黒豆の上に五稜郭みたいな形に皮を剥いた真っ白な慈姑(くわい)が一つ。黒と白が好対照で、まさしく芸術品に近い一品だ。

親爺いわく「黒豆はゆがき、煮て、一晩かけてさます」のがコツだとか。

そこへ酒とビールが、続いて刺身が運ばれ場は盛り上がった。会社の人事に始まり、競馬にトランプ…話題は尽きないが、急に思いだしたように刈田が親爺に向かって「さっき〝紅一点〟とか言ってたけど、さて紅は何でしょう?」問題を出した。

すると下川ってのが「悪趣味だなあ。人を試して。まるで別部さんみたい」と首を振る。

「へへっ。ご安心を。柘榴です。柘榴!」。親爺自慢気だ。この程度は清水との会話で親爺も慣れっこになっている。

それはともかく、これで遠野は別部の置かれている立場がよ~く分かった。そんな折も折、笠子の煮付けが出てきた。

「おっ。別部がここにいるぞ」。珍しく遠野が寒い冗談を言うと「笠子は顔と口はでかいけど実は少ないからなあ」親爺が締めた。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。