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競馬コラム

心地好い居酒屋

2016年12月20日(火)更新

心地好い居酒屋:第12話

12月4日。遠野と「頑鉄」の親爺は約束通り新宿東口地上の交番前で午後1時に待ち合わせ、清水の墓参りに出かけた。

清水の功徳か二人が晴れ男なのかは定かではないが、この日の東京は快晴で微風。大雪(7日)目前とは思えぬほどの暖かさに恵まれた。

新宿から急行か快速電車に乗れば目的の駅まで20分足らず。始発だから10分も待てば楽に座れるのだが、年寄りは気が短い。〝待ってる間に着いちゃう〟とばかりに出発直前の電車に乗り込んだ。

混んじゃいないが座れもしない。ドア付近には抱っこ紐の女性が、隣には亭主だろうか同年輩の男が荷物を持って立っている。

ふと前方左を見ると、そこは俗にいうシルバーシートで3人は優に座れるスペースがあり、ご丁寧に英語、中国語、韓国語で〝優先席〟の表示がされていた。それでも学生風の若い男二人が真ん中の隙間を狭くし、両側に平然と陣取っている。

遠野と親爺は譲ってもらう積りはさらさらないが、そこは阿吽の呼吸で、あえてその前の席に移動し吊皮を掴んで立った。嫌味ではある。それでも男二人は悪びれもせずで、ゲームに夢中だ。

「嘆かわしいねぇ。清水さんが見たら注意するかなあ」「何とも言えん。ただ昔の清水さんなら注意じゃなく〝ごめんよ〟と言って真ん中に座るかもね」。

喧嘩を売る気はないから相手には聞こえない程度の問答が続いた。「あの夫婦だって頼んでまで座ろうとは思ってないんじゃない。第一辛かったら亭主が声をかけるだろ」「ま、そりゃそうだ」と親爺が納得した時に最初の停車駅に着いた。

同時に夫婦は何事もなかったように降りて行った。余計なことは言わない、しないのが賢い選択の時代になったようだ。

そんな光景や雑談で退屈する間もなく目的地に到着した。駅は高台にあり、坂を下り切ったところを右折。直進し再び右折すると今度は登りだ。結構きついが親爺は毎朝の河岸通いで健脚そのもの。グイグイ進む。

坂の途中に寺はある。山門をくぐると遠野が先導して庫裏に行きブザーを押した。先月と同じ、化粧気はないが上品そうな40がらみの女性が出てきた。

線香を所望し1000円を差し出すと2束にガスで火を点けてくれた。「ご苦労さまです」の声を後に墓所に向かう。

墓所の入り口に小屋があり、そこには整理整頓された閼伽(あか)桶が並んでいる。遠野がポンプの水を汲み入れると親爺が遠野に線香を渡し、柄杓と一緒に閼伽桶を持った。

小屋から清水家の墓までは30~40メートルほど。登りの傾斜が続き登り詰めた所にある。西に傾きかけた太陽の下で光輝く墓標を二人して閼伽桶の水で清め、ご香台に線香をあげて、手を合わせた。

親爺は胸の閊(つか)えが取れたのかふぅ~と息をつき墓標の後に回り下を見下ろした。「静かだし景色も抜群だね。この場所なら清水さんも…」

「ん?」遠野が訊いた。「いやいや何でもない。連れてきてくれて有難う。じゃあ降りようか」

閼伽桶小屋の傍にドラム缶で作った灰皿を見つけた親爺が「一服して行こうよ」と言うなり両切りのピースに火を点けた。

遠野はショートホープを取り出し、火を点けてもらうと旨そうに吸い込み真っ青な空に向かって紫煙をくゆらせた。

ゆらゆら揺れながら、ほぼ真っすぐに上がっていった。「清水さんもこういう緑の多い自然の中で吸うのが一番旨い、と言ってたなあ。もうここでも吸えないけどな」。親爺は無言で頷く。

「あ、そうだ。今週、来週と行けないけど19日に行くよ。もし予約に余裕があるようなら、あいつらにも伝えといて。『月曜日にして下さい』なんて頼まれていたし、有馬記念の週だからな」。

12月19日の月曜日も快晴。遠野が7時過ぎに「頑鉄」に入って行くと、団体さんも居てカウンターしか空いてない。それはそれでいいのだが、親爺が寄ってきて「ご覧の通りで。あの次の日に予約を調べたら、すでに一杯でね。〝知ったかさん〟にはとのさんの気持ちと断りの電話しといたよ」

「考えてみると実質的な営業は今週木曜日までだし仕方ないよ。いやこの時期に暇なようじゃお先真っ暗だろ」と応えてお通しのタラコに箸をつける。

「違ぇねえや」。親爺は例によって笑いながら禿げ頭をたたく。「ところで有馬は、やはりサブちゃんから?。で、相手も社台系か」

「ま、今年一杯はそれでいくよ。ただ有馬の馬券はサブちゃんからの流しだけだな。ボックスも3連複も買わない」

「賢明だよ。第一、自分で検討もしないで社台を選んで買うなんて面白くもなんともないだろ。あの横山って奴に訊いたら分かるが、名義は社台じゃないけど一丁ガミ(乗り)の馬が結構居るみたいだし、それらをも買うと何点になることやら」

「へぇ~そうなんだ。ま、確かに阪神2歳のジュベなんとかは当たって大損だし、昨日のフュなんちゃらは、④着だったけど社台の馬が一本人気。あれじゃあ当たっても配当の妙味もないし…。ところでとのさんは何から買うの」。珍しく遠野の馬券を訊いてきた。

「そうさなあ。雨の影響で馬場がどうなるかだが、現時点では2㌔減が有利のサトノダイヤモンドと去年の勝ち馬ゴールドアクターかな」

「サブちゃんのは?」どこか不満気だ。「もちろん買うよ。ただ、さっき言った馬場が気になって軸はどうだろう」

「じゃあとのさんが今週は出歩いて競馬場にも行ってよ。ほら4日も、今日も快晴じゃん。とのさんが来ない間、雪が降ったり寒波が襲来したりで変な天候だったし、とのさんの力で良馬場にしてよ」。

冗談交じりに頭を下げたところに「親爺さん熱燗まだですか」の声がかかり「じゃあ」と手を挙げて席を離れた。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。