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心地好い居酒屋

2019年08月14日(水)更新

心地好い居酒屋:第72話

今でこそ国道15号線につながる陸橋など新しい道ができたけど、以前の「池上通り」といえば品川区大井の三つ叉が起点で、そこから京浜東北線沿いを池上本門寺に向かって走る都道だった。その中間に目立つ三叉路・大森山王があり、右に曲がると尾崎士郎記念館や(徳富)蘇峰公園に向かうことになる。風格のある洋館や大森教会も粛然と建っていて、昔から俗にいう“上流階級”の人種が多く住んでいた風情が今も残っている。阿部京子の実家はこの一画にある。

一方「完庶処」の1号店はそんな大森山王の三叉路のすぐ近くだ。10年以上も前の開店時は平屋建てで20人も入れば芋洗い状態だったのだが、その後近辺を買い増し今や3階建てのビルとなり、2階には個室や宴会用の広間も作った。3階は自宅ではないが、応接にも使えて有村一家が寝泊まりできるような設計だ。

「お話とご相談もありますので」と阿部秘書と梶谷から誘われ、遠野が、その1号店を訪ねたのは振り替え休日の12日夕方のこと。「完庶処」はビジネス街を中心に“お盆休み”の店舗は数店あるが、大森山王店は地元の客が多く、休日も家族連れで結構混むんだとか。現に、この日も夕食を楽しむ客で1階は満席に近かった。

店で名前を告げると2階の個室に案内された。もちろん、すでに2人は来ていて明るい雰囲気で会話を楽しんでいた。テーブルには麦茶と和菓子らしきものを食べた皿が残っている。遠野が「お待たせ」。言うと同時に阿部秘書と梶谷が唇を軽く拭いながら立ち上がり「暑い中、お呼びだてして申し訳ありません」と頭を下げた。

「おいおい、どうしたんだ。畏まって…。そんな堅苦しい挨拶をされると、こっちも緊張して話ができなくなっっちゃうよ」。遠野が手を振りながらマジで返すと「あら!遠野さんから緊張なんて言葉を聞くなんて…。もう、それだけで今日、お会いした甲斐がありました」と梶谷がニッコリ。これで座の空気は少し和らいだ。

美女2人を前に腰を下ろした遠野は「この風景は初めてかな。いやぁ眼福、眼福」。満足気にお絞りに手をやると「どうぞ、気にしないで顔も首も拭いて下さい」と阿部秘書は言った後、目の前の皿を指さしながら「とりあえず冷たい“くず餅”召し上がります?」「いや。始めよう」。遠野が答えると阿部秘書がテーブルのボタンを押した。

合図を待っていたかのように早速フロアー係が上がってきた。「ではお願いします」と阿部秘書。料理は前もって頼んでいたようだ。テーブルにあった皿などを片付け、一礼して下がった係はすぐに仲間と一緒に水ととグラスに「浦霞」(大吟醸)、それにお通しらしきものを運んできた。

「おじさんの所ほど立派じゃありませんが、もしお好きなものがあったら仰って下さい」「肴は京子ちゃんにお任せ。あ、ただ一つ、後で『黒霧』を飲みたいから、その時に黒豚の酢豚をお願い」。そんな遣り取りの最中に梶谷が「浦霞」を開け、並べたグラスを取るよう遠野を急かした。個室で3人だけ、という雰囲気に最初こそ戸惑ったが、梶谷の愛嬌と天真爛漫さが正常に戻した。

「ところで話って何?」。遠野はグラスを口に運び、お通しの水雲(もずく)に箸を付けながらどちらかにでもなく声をかけた。「ほら、先月の飲み会で下川君が話題にした局長と別部さんの口論。続きがあって、その後も広告の後輩を連れて有楽町店(完庶処)に行ったらしいの。それを局長が聞きつけて、またまた怒って…。『誰のおかげで部長になった!俺の言うことが聞けんようなら、その通りの対応をしてやるから覚悟しておけ。土下座するなら早い方がいいぞ』と」。答えたのは梶谷だ。

「それで?」「さすがに別部さんもショックだったみたいで、先月末に3日ほど寝込み、出社するようになってからもボーっとしている日が多いとか」「パワハラそのものだな。それも仕事に関係なしの。まさか主従でもあるまいし」。困ったもんだってな感じでゆっくり酒を飲み「でも、そんなの俺に振られてもなぁ。ごめんね」と謝り、刺し身と一緒に届けられた短冊に切った薩摩揚げを口に入れた。やはり旨い。

「本題はここからです」。毅然とした趣で阿部秘書が口を開いた。「そんな状況でもウチに来て頂き、今月始めには有村とも店で会っているのに、そんなこと噯気(おくび)にも出さずニコニコしていましてね。私も“梶”から教えて貰うまで全く知らなくて…。もうビックリで、有村にも事情を説明した訳です」。「なるほど。有村社長の人柄からして、別部には同情、甘方に対しては“ロクでもない奴”だろうな」。遠野は徐々に筋が見えてきた。

「その通りです。『自分はまだ人を見る目がない』と悔やみ、初対面で郷土話からすっかり信用しちゃったことを恥じてましてね。それだけに『別部部長の役に立つことがないかな』と言い出し、早速、先週会って」「京子ちゃんも同席したんだ」。遠野が合いの手をいれた。「ええ。有村と別部さんは色んな話をされていましたが、最後に『今後も社内であんな局長に支配され、指示される生き方を選びますか。貴方の人生です。好きなように生きて下さい。その生き方が、私が共鳴するものであれば協力は惜しみません』と。別部さんは涙ぐむし<さすが有村>と感動しました」。その瞬間を思い出したのか阿部秘書の語りには心が籠っていた。

「甘方のお世辞じゃないけど、まさに“薩摩隼人”だね。立派だ。で、俺に何をしろと?」と言い「ぼつぼつ『黒霧』と酢豚の準備をしてもらおうか」。<長くなりそうだ>と思いつつ耳を傾けた。

「別部さんを助ける妙案はないですかねぇ」。阿部秘書が呟くと梶谷は「この話を高にぃにしていいやらどうやら」と。2人して残った冷酒をグラスに満たしている。

「井尻にはしばらくは内緒がいいと思う。機会があれば俺が話す。別部については、有村社長が後ろに居ないような形で新しいクライアントを紹介できれば最高なんだけど…。でも、別部がどうするかは、まだ分かってないんでしょ。つまり“共鳴”できるかどうか」。別部の軽さを知っているだけに遠野も半信半疑だ。

「よく考えるけど、当分は様子を見るしかないね。それより、京子ちゃんちはここから近いし、社長との信頼関係を考えると、何か因縁というか、家族ぐるみの付き合いなのか…。自分にはそっちの方に興味があるんだけど、どうなの?」
「その件については、近いうちに必ず」。ウフッと微笑まれ、この話題は打ち切られた。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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