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競馬コラム

心地好い居酒屋

2019年01月14日(月)更新

心地好い居酒屋:第59話

小寒と同時に寒波が襲ってきたが、寒さに反比例するかのように日の入りは遅くなり、5時を過ぎても、まだ明るさが残っている。遠野が市場通りを左に曲がり路地に踏み入れ、「頑鉄」の方を見遣ると縁台に座っている親爺が確認できた。そしてその手元では小さな赤い物が点滅していた。薄暮より暗く、闇よりは明るい…。

喫煙はもちろん「受動喫煙にも注意して下さい」と医者から言われている遠野に気を遣い、慮(おもんばか)ってのことだろう。有り難いことではある。とはいえ、親爺に風邪でもひかれたら身も蓋もない。早足で近づき“お目出度う”の挨拶よりも先に「寒いだろ!中に入ろう」と声をかけると慌てて立ち上がり「おっ。明けましておめでとう。今年もよろしく」。ニコッと笑った親爺に「こちらこそ」と応じ店に入った。

一人で指定席に座る気はなく二人してカウンターに腰を下ろした。「大丈夫?元気だった?寒いと余計苦しいんじゃない?……」と矢継ぎ早に質問してきた。「おいおい、重病人扱いしないでよ。“飲む時は元気に”じゃないと周りも迷惑だろ」「でもさ、ホラ、暮れの飲み会では『有馬記念』の検討もそこそこに7時前には切り上げたし…」。親爺の不安は消えてない。

「あの日は忘年会も多く超満席。何組かの客を断っていたようだし、お嬢達も気にしててな。誰からともなく<帰ろうか>という雰囲気になって…。で、まあ馬券の目を告げ、今日(11日)の約束をして散会ってことになったんだ」。善良な親爺を誤魔化しても仕方ない。遠野が意を決したように口を開き、茶碗を両手で包み込むようにして熱い焙じ茶を啜った。 「そうかぁ。確かに忙しかったし悪いことしちゃったな」と頭を下げた。「いやいや、忙しい時にキッチリ稼いでくれないと、俺達も安くて旨いもんにありつけないし」。遠野が冗談めかして言うと「違ぇねぇ。それにしてもあの日(12月22日)は混んだ。とのさん達が帰った後も3、4組入ってきたもんな。おかげで稼がして貰ったし、今日はビシッとサービスしなくちゃ」。

同じ3連休前の金曜日というのに、暮れと新年では雲泥の差。暮れは早い時間から予約で埋まっていたのに、新年は遠野達の他には一組3人だけとか。それも7時過ぎらしい。「水商売とは良く言ったもんだよ。だ~れも来やしない」と言い、席を見回し入り口を振り返った。客の気配はない。

「暇で、誰も居ないんだから、あえて寒い中で煙草を吸わなくてもいいのに」。遠野が店内での煙草を促すと「ガキの頃の“便所煙草”じゃないけど、禁止されたり、辛い、寒い思いを我慢して吸うからこそ旨い時もあるよ。そうそう、鬼平だって女房殿から叱られるのを承知で“寝煙草”と夜中の“盗み酒”が大好きだったし」「なるほど、そうきたか。分かった分かった。どうぞ好きにして下さい」。遠野は改めて親爺の好意を素直に受けることにした。

「でもよぉ。誰にも邪魔されないで好きな煙草を吸って、気心の知れた人間と旨い酒を飲み料理を食う―。美女の酌もあるし、こんな生活が一番幸せかもなぁ」。親爺の言葉とは思えず「どうしたんだ!急に」と遠野。「いやね。去年というか一昨年は籠池夫婦が、今年はゴーンが寒い拘置所の中で年越し――。自業自得といえばそれまでだが、その落差を考えると他人事ながら哀れで」。ボソリと洩らすと茶碗に手を伸ばした。

「そうだな。籠池のおっさんはともかくゴーンなんてサンドバッグ状態。“皆んなで叩けば怖くない”でメディアはお上の発表をタレ流して、“強欲な犯罪者ゴーン”を印象付けようとしてるみたいだし」。遠野が同調すると親爺が「“水に落ちた犬は打て”ということか」「いや、“落ちた”じゃなく“落とした”だな。報酬だけならともかく、それ以上に独裁者の権力と茶坊主の連中を失脚させるのが目的の内部告発だったと思うぞ。それも幹部の。ま、法人としての日産も告発されているし、被害者然としている今の執行部も無傷じゃすまんだろ」。仕入れた情報をチョッピリ披露し、“お茶請け”の山クラゲの漬け物を摘まみ口に入れた。醤油味もそうだがコリコリした歯触りが最高だ。

親爺は「ふ~ん。殿様と君側の奸を同時に排除するってことか…。偉くなればなったで悩みや不満、それに欲も生まれるんだ。こうしてお嬢達のご入来を待つのもワクワクするし、やっぱり今が一番幸せだね」。無事、話題が振り出しに戻ったところで「ボツボツ始める?。一本つけるよ」「そうだな。でも折角だからもう少し待とう。お茶のお代わりを頂戴」と遠野が茶碗を差し出した後「親爺さぁ、こんなの知ってる?。少し間違っているかもしれんが」と言って、紙に書いた。

<清茶淡話 友に逢い難し>
「何となく分かるような気がする。今の俺ととのさんみたいな関係を示しているとか…」。覗き込みながら親爺が答えた。「さすが親爺!そういう事。酒席だと、すぐに友達らしき者はできるが、お茶だけで話し合える友達は得難いってな。たまにはこんなお茶だけで過ごす時間があってもいいだろ」。親爺のしんみり話に影響されたのか、遠野も、つい柄にもない心境になってしまった。

「いつも酒は飲んじゃいるが、お嬢達も当然“清茶淡話”ができる友だよな」。親爺が確認した時に玄関を開ける音がした。

 親爺は早速「千寿」の熱燗を仲居に指示し、板場の吉野は正月らしいお通し=酒肴の盛り付けに取りかかった。味付け数の子・叩き牛蒡・田作の3点らしい。遠野は「有馬記念」の配当が入った封筒2通を内ポケットで確かめカウンターから立ち上がった。

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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