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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年08月26日(日)更新

心地好い居酒屋:第50話

冷房嫌いの遠野も24日の金曜日はさすがにクーラーの恩恵に浴した。6時も過ぎたというのに暑さは衰えず、湿度は80を超していたのではないだろうか。築地駅の階段をやっとの思いで登りきり、外に出ると、排気ガスまでもが湿気を帯びているようで、ムッとした暑さと同時に湿った粘っこい空気が体にまとわりついた。

「頑鉄」の前に親爺は居ない。まさか店が混んでる訳でもあるまいし、煙草より涼を求めてカウンターで「優馬」でも読んでいるのだろう。<やっと着いた>との思いで中に入ると乾いた冷気が体を包み込んでくれた。親爺はといえば、果たせるかなで「優馬」に見入っていた。“予約席”の札は立っているが客はまだ居ない。そのままカウンターに向かうと、親爺、座ったまま「らっしゃい。とりあえず麦茶でいいかい」と労い、お絞りを渡す。

「ありがとう。冷房嫌いの俺がクーラーに感謝だから、今日の暑さは異常というか不快だなホント」「でもよ。俺たちオジさんは、顔はもちろん、誰もいなけりゃ首まで拭けるからいいけど、お嬢たちは大変だよな」。親爺、早くも阿部秘書と梶谷に心を馳せている。

「そう言やぁこの間の客が先週も顔を出してな」「鱧シャブを食ってたあの景気が良さそうな5人組?」。遠野が氷の入った冷たい麦茶を飲みながら応じた。「うん。とのさん達のことをさり気なく訊いてきてな」「……」「近くの会社員で、とのさんは、退職した先輩とだけ言っといたけど…」。チラチラ偸み見してただけに、およその見当はつくが遠野は茶請けの山クラゲの漬け物を摘まみ「たまげてたんだろ美人ぶりに」と。

「そうなんだ。成田というトップらしき男が『尤物ですね』と。」「40過ぎぐらいだろ。難しいというか随分時代がかった言い方じゃないか。何屋さん?」。興味が湧いたのか遠野が訊く。「何でもゲームのソフトとやらを開発していて、一発当てれば結構な儲けになるらしい。得意なのは中国や日本の歴史ものとか」「ふ~ん。それで“尤物”なんて言葉を知ってるのか」。遠野が言ったところで親爺が膝を打った。「そうか~。あの連中も覚えたてで使いたかったし、俺が知ってるかどうか試したのかも知れんな」。やや憤慨気味だ。

「で、何と答えたの」「『ウチの常連さんですから…。<花は折りたし 梢は高し>ってとこ』と言ってやったよ。へへ、連中、一瞬キョトンとしていたが、最後には成田ってのが『今後ともよろしく』と頭を下げてたな」。思い出したのか機嫌も直ったようだ。

“噂をすればなんとやら”で「お邪魔しま~す」と梶谷と阿部秘書が入ってきた。二人の手にはハンケチが握られており、顔をポンポンとたたき、汗を染みこませた後「わぁ涼しい」と。

遠野は「はい。今晩は」と腰を上げ指定席に移った。井尻は台風情報の収集で少し遅れるらしい。今日の酒はいつもの「洗心」でタコと胡瓜、セロリのサラダがお通しで、山形のだだちゃ豆がサービスだ。席に着いた美女二人と親爺の4人で、まずは乾杯の真似事をしグラスに口をつける。それぞれが飲んだ後、親爺が封筒を差し出した。「札幌記念」の配当400円分5320円が入っている。「とのさんと俺の分」。受け取った梶谷は「有り難う」と言いチャラ銭を親爺に渡し「これで冷や奴ちょうだい。阿部さんといただきます」。茶目っ気に溢れた娘ではある。

「“梶”凄いじゃん。また当たったの」と阿部秘書。「今度は遠野さんも。外れたのは競馬担当の横山君だけ」。対面の遠野を見上げながら舌をチラリ覗かせニコッとする。

「今日の新子は刺し身にしたよ。やはり、これくらいになると締めやすいし、刺し身でも食べごたえがあるね。こないだの新子は寿司の方が旨いと思うけど」「ええ。美味しかったです。あ、そうそう寿司といえば…」と言いかけ、口を噤んだ。「寿司がどうした?」と遠野。「あ、いえ、何でもないです」「途中で止めるのは良くないなぁ」。遠野がモソッと言い、わざとらしく不機嫌そうにお通しに箸をつけた。旨い。ドレッシングの塩胡椒がピリッと利いていて酒が進みそう。

「“梶”の昔の武勇伝です」。阿部秘書が梶谷に代わって続けた。「例の支店長に連れられて“馴染み”だという寿司屋に行った時、ガリ程度はともかく通ぶって、玉(ぎょく)、むらさき、上がり、ガレージ…と符牒を連発して。その都度、恥ずかしいなぁとは思っていたんですが…」。そこへ当の梶谷が割り込んだ。「いえ。ギリギリまで我慢してたんです。ところが、突然、私の前にあった楊子をみつけ『梶谷君!黒文字とってよ』って」。<面白くなったぞ>てな感じで遠野と親爺は次を待った。

「思わず『えっ!黒文字はありません』と。だって、この店と違って黒文字の楊子じゃありませんから。屁理屈は分かってますが、それまでがそれまでなだけに」。何か申し訳なさそうに下を向いた。

「そこで“梶”の言葉に気がつけばいいものを、支店長『目の前にあるだろ。爪楊枝だよ爪楊枝!。爪楊枝のことを黒文字と呼ぶんだ。覚えておきなさい』と。あれには驚きました」。当時は阿部秘書も啞然としたようだ。

「あのぉ、あの時は特別で決して偉そうにした訳じゃないし、それ以上の事は言わなかったので変な目で見ないで下さいね」。梶谷が妙にしおらしい口調で謝る。

「いやいや雅子ちゃんらしくて傑作傑作!なぁとのさん」「まさに“尤物”。支店長に恥をかかせなかったのも正解です。お利口さん」。親爺と遠野の会話を聞いた梶谷は涙目になっていたが、ホッとした様子で秋刀魚の刺し身に箸を付けた。

そこへ予約客が入店。間髪を入れず井尻が息せき切って入ってきた。「おっ。局長に見込まれた“尤物”部長がやってきたぞ。親爺ビールを早く」。遠野が冷やかし口調で言うと美女二人は首を傾げて「“尤物”というのは?」と。「ほう珍しい。知らない事があるってのも可愛いねぇ。スマホで調べてごらん。な、井尻!」。言われた井尻はなんのことか分からないまま最初のビールを一気に飲み込んだ。 局長とどういう付き合いになったかどうか、録音の件がどうなのかをじっくり聞かなくてはならないのだが…。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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