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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年08月16日(木)更新

心地好い居酒屋:第49話

築地市場のお盆休みは14日~16日。「頑鉄」の親爺もその期間の営業をどうするか前々から悩んでいたのだが、17日の金曜日は阿部秘書が出席できないとのことだったので、早々に営業を断念。ただ、13日は「ザッツ」の連中から「遠野さんが顔を出してくれれば是非」との要望があり13日と14日の営業を決めた。特に横山が遠野に会いたかったようだ。

果たせるかな、遠野が5時過ぎに着くと、親爺が「らっしゃい」と声をかけ、顎をしゃくった。すでに横山はいつもの席に座り、麦茶をのみながら「週間・競馬ブック」に目を落としていた。「おっ早いな。先日は美味しいウニ有り難な」「いえ、こちらこそ。いろいろとご教授いただき感謝しています」。掘り炬燵に突っ込んでいた足を上げ、正座で頭を下げた。

「おいおい勘弁してくれ。ほれ楽にして」。お絞りを使いながら遠野が言ったタイミングで親爺自ら「洗心」と「黒霧島」のボトルを、仲居がグラスとお通しを運んできた。「横ちゃんはどっち?」。親爺が訊くと「あ、冷酒で」。態度もそうだが、飲み物まで変わるんだからビックリもんだ。

「刺し身は後でいいだろ。とりあえずは茶豆とこれで飲(や)っといて」と言い、お通しの入った鉢を指差した。中にはオクラに納豆と細切りにした自然薯が。粘っこい食材ばかりだ。「夏バテに良いだろうってことで試しに吉野(若い板前)が作ってみたんだが、結構いけるよ」と親爺が言い、醤油をかけ、箸でぐりぐり捏ね始め「ほい!」と遠野に渡した。受け取った遠野は捏ね続け、横山も遠野に倣った。

ほどよい粘りになったところで二人して口に入れた。不安げに見詰める親爺の視線を気にしながら「うん。臭みが緩和されて納豆嫌いな奴も食えるんじゃない」。親爺ほっとした様子だ。「ところで横山君、『札幌記念』に行くんだって」「ええ。私事で恐縮ですが祖父の傘寿のお祝いを、その日の晩にすることになって」「例の“邦ちゃん先生”ファンの」「はい」「待てよ!傘寿ってことは“邦ちゃん先生”と同い年?」。遠野はグラスを傾けながら訊いた。遠野が祖父の事を覚えてくれていたのが嬉しいのか、ニコニコしながら「そういう縁もあってファンになったみたいで…」と横山。聞けば今朝、祖父は一人仏壇に手を合わせ“三回忌”を済ませたらしい。

「じゃあ、恐らくアチーブスターの『桜花賞』は大儲けしてるな」。茶豆を放り込みながら遠野が言うと、横山は一瞬ビクッとしてお通しを摘まんだ箸を停め「そ、その通りです。随分自慢話を聞かされましたから」と言い、まじまじと遠野の顔を見た。

「ついでに言えば、ヒデカブトが勝った『札幌記念』も自慢話の一つじゃないの」。遠野がさり気なく言うと、唖然呆然の態で「そこまで…」と、本気で頭を下げ「そんな話がサラッと出るなんて…」。教祖もかくや、と思わせるほど畏れ入っている。「な~に特殊だから覚えている、というか知ってるだけのことで大したこっちゃない。ただ、札幌の人で“邦ちゃん先生”のファンと聞けば察しはつくさ」「それにしても」と横山。

酒を飲みながら二人の会話を聞いていた親父が「この程度で驚いていたんじゃ横ちゃんもまだまだだねぇ」と苦笑いしながら「今日はいつもの刺し身とは別に伊勢エビを用意してるけど、揃ってからでいいかね」「そうだな。じゃあスルメの一夜干しでも貰おうか」「あいよ」と立ち上がった。

「あのぉ~。特殊ってのは」。酒を飲むのも忘れ訊いてくる。「そもそもは俺も含めて亡くなった伊藤のテキ(修司調教師)との繋がり。テキが腕を見込んで厩舎人脈やら一門の関係を別にして夏の北海道競馬では頻繁に騎手・武邦に騎乗依頼してたみたいでな。そのうちの1頭がヒデカブトでもあったってこと」。黙って聞いていた横山が「ボクが生まれるずっと前ですよねぇ。何だか祖父の話を聞いてるようで」。絞り出すような声で呟く。

「そういうことになるけど君のお爺さんには敵わん。だって武邦ヒデカブトを生で観てるんだからなぁ。“邦ちゃん先生”が俺に口をきいてくれるようになったのはスーパークリーク以降。もちろん“豊ちゃん”とも」

「武邦先生はどんな人ですか。帰って祖父が知らない先生のことを教えれば喜ぶんじゃないかと」。少し落ち着いたのか、やっとグラスを口に運び、お通しを箸で掻き混ぜた。

「たいていの事は新聞や何かで読んで知ってると思うけど、とにかくビール好きだった。コンビニなんてない時代の牧場巡りではクーラーボックスに缶ビールを詰め込んで持って行ったほどで」と言った時にスルメが焼き上がった。「アチッ」と手を振り振り毟り取って食べる。柔らかく醤油味が染みていて旨い。

「そうそう。“邦ちゃん先生”は自分は食わないのに料理が好きで。確か浦河の牧場だったか“豚シャブ”を振る舞ってくれてな」。そこまで言うと<俺も聞いてないぞ>てな感じで遠野を見遣った。「出汁はともかく汁が傑作で、日本酒をドボドボ。あれには驚いた」。昭和か平成に入っていた頃のことか。聞いてた二人も興味深げだが、遠野自身も当時を懐かしんでいた。

「ところで『札幌記念』は買うんだろ。何がいい?」と親爺。「そうだな。季節をレース名で感じる人がここに居る以上、買わん訳にはいかんだろ。な、横山君!」「冷やかさないで下さいよ!恥ずかしい」。横山が照れながら「現時点では札幌3戦3勝のネオリアリズムかな」と。「俺はサクラとミッキー、それにサングレーザーに注目してるが親爺は当然マカヒキだよな」「あの清水さんが最後のダービー予想で1強と断言した馬。海外はともかく現役中は買う積もり」と親爺が胸を張った。

取りあえずの馬券検討が終わったところに、新しい客4人が入ってきた。「他がやってないから予約が二組入ってて」。親爺が遠野に囁いた。横山は「ボクが営業お願いしたようなもんですからホッとしました」とニッコリ。そこへ梶谷と井尻が到着、一気に賑やかになった。梶谷は遠野の隣に腰を下ろすと同時に「お久し振りです」と白々しい挨拶をするや「お馬さんの話をしてたでしょ。馬券を買うようでしたら、また3人に乗ろうかな」


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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