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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年07月29日(日)更新

心地好い居酒屋:第48話

美女二人が参加する恒例の飲み会は、昨秋の親爺が守った“尾生の信”を筆頭にだいたいが悪天候や、あるいは事件や事故に悩まされるのだが、今回だけは違った。この金曜日27日は風も爽やかで陽の高いうちに家を出て、5時前に「頑鉄」に着いた時も汗はほとんどかいてなかった。

中に入ると<待ってました>とばかりに親爺が寄ってきて「準備できてるよ」と。もちろん他に客はいない。他の3人が来る前に、16日に行われた清水の三回忌の報告と親爺と二人だけの「偲ぶ会」を催す算段だ。

「昨日までの暑さじゃとのさんの体が心配だったけど、今日は良かったよホント」

「ありがとね。外を歩くと酸素が気化し薄くなってるような感じで息苦しくて……。それに電車はキンキンの冷房だろ。腰から下の血流が止ったように冷たくてな。最近の天気を考えれば僥倖としか言いようがないよ」。親爺にだけは泣き言も言える。

「清水さんのご加護があったのかも」

親爺、シャレた言葉を使って遠野を労(ねぎら)った。カウンターに並んだ料理は清水に褒められた胡麻豆腐と鮎の塩焼き、そして新潟競馬開幕に因んでか喉黒(ノドグロ)の一夜干し。酒は「八海山」の大吟醸だ。

四方山話の間に、ふと遺影に目を落とすと、今にもこちらに話しかけてきそうだ。煙草を吸ってる笑顔がいい。様になっている。「そう言やぁ、清水さんは『博打に紫煙は付きもの』が持論だったけど、目下の禁煙騒ぎやとのさんの病気と禁煙のことを知ったらどう思うかねぇ」。親爺が訊く。「俺の禁煙に関しては肺気腫を気に掛けていたし『ゴルフも駄目か?労(いたわ)れよ』で怒らないだろうけど、風潮には『どいつもこいつも流されやがってどうしょうもねぇな』とボソっと漏らしてチョンだろ」「ゴルフ?」。不審気に問い質した。「親爺には関係ない。要するに体力も落ち下手になったってこと」。背景を説明するのも面倒だから遠野の方から話題を切った。



6時ジャスト。ドアが開き客が入ってきた。「予約でね。最近結構使ってくれてるんだ」。遠野に囁き「らっしゃい」と元気よく立ち上がった。遠野は遺影をポケットに忍び込ませ、酒とグラスを持ち指定席に移動した。

客は5人。入ってすぐの席にセットされていた。ボトルはウイスキーと焼酎だ。親爺と仲居がお通しと水、氷にポットを運び終えたところに、今度は3人がご来店。先頭は梶谷で阿部秘書、井尻が続いている。目が合ったのだろう、正面の先客に軽く黙礼をし、そのまま遠野の席に向かった。その様子を見ていた遠野は一人、楽しんでいた。お絞りを使いながら雑談していた全員が息を止めたかのように静まりかえったのだ。掃き溜めじゃないけど“鶴”の登場に驚嘆したのは間違いない。

「あらっ。遠野さんが先にいらしていたとは」。梶谷は挨拶も忘れるほどビックリしたみたい。「お、久し振り。今日は涼しかったし、遅くには雨かもしれんし」。遠野が返す。梶谷が前に陣取り、隣が阿部秘書。その前に井尻で、後ほど親爺がおまけに付くはず。

「今日の酒はとりあえず『八海山』。無くなったら、この間、京子ちゃんところで飲ませてもらった『浦霞』らしいよ」。遠野が言うと「恐縮です。遠野さんに説明していただくなんて…。私達はこうして皆さんとお会いできるだけで幸せなんですから。ね、“梶”!」。珍しく阿部秘書が冷やかし気味に答えた。

親爺が刺し身を持ってきて座った。腕を伸ばし酌をしながら、さりげなく奥に目を遣ると、ひそひそ話で、チラリこちらを偸(ぬす)み見している。若い頃は逆の経験があるだけに実に愉快だ。誇らしくて、思わず笑みが出た。

「なんですか?その思い出し笑いは」と梶谷。「いやいや。美女と飲むのがこんなににも楽しいのか、と改めて感じていたところ」。遠野が答えると「ま、いいか。遠野さんに褒めてもらうなんて初めてですもんね?阿部さん」「そう。嬉しいことがあったのか、よほど今日の気候が気持ち良かったんでしょうね」

 〽ああよき天気心安らかなり日本の夏 〽―。遠野が節をつけて呟くと美女二人は首を傾げ、目を合わせた。すかさず、梶谷が頷き「おと~のさんカッコイイ」と。聞いた親爺と井尻は二人して大笑いだ。

「その籠池さんじゃないけど、今度は裏口入学で文科省の局長が逮捕され、またまた怪しげな音声が公開されましたね。ああいうのって誰がどんな目的で録音し、挙げ句バラすんですかねぇ。井尻さんはどう思います?」。暑気バテには最高らしいキュウリと若布にチリメンを加えた酢の物に箸を付けながら阿部秘書が訊く。

「こればっかりは…。でも文科省関係は先日も出向役人が逮捕されたし、どこか目に見えない糸に操られているのか、それとも情報が筒抜けなのか…。悪い事をした奴が報いを受けるのは当然ですが、一昨年の天下り問題にしろ、文科省だけ特にというのは腑に落ちないですね」。井尻も当惑気味だ。

「甘方は籠池のおっさんより、もっと前からレコーダーを持ち歩いて自分の為に活用していたんだから“先見の明”があったのかな。最近ちょくちょくお呼びがかかるそうだが、お前は大丈夫か録音!。それとも逆に録ってみるか」。遠野が茶々を入れる。「そ、そんな」と狼狽える井尻に向かって「信頼してもいいけど盲従は止めろよ。同僚や上司の批判は黙って聞いておけばいい。お追従で相槌を打っても、いつか自分に返ってくるからな」と。

遠野は酒席で<言わずもがな>かな、とも反省したが「はい。先輩の忠告は肝に銘じています」と殊勝な言葉が戻ってきた。接する機会が増えて思い当たるフシがあるのかも。梶谷は黙ってウンウンと頷き肴を口に入れた。

刺し身は鮪の赤身、平政(ヒラマサ)に城下鰈(シロシタカレイ)だが、そんな梶谷を見て「今、太刀魚を焼いてるし、後で小鰭(コハダ)じゃない新子を4、5枚使った握りを出すから腹を空けといてよ」とニヤリ。これにはさすがの梶谷も大照れで「おじさんったら、もう」と叩く仕種で拗ねる。「そうだ!おまさちゃんには、銀行時代の逸話がまだまだありそうだし、近いうちに聞かせてもらおうかな」。遠野が言うと「高兄ぃ、何か喋った?」。梶谷が井尻を突っついた。井尻は手を振り 〽蝉の声今静かにして木の下に宿れるなり 〽―。手で口にチャックをした。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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