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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年05月23日(水)更新

心地好い居酒屋:第43話

温度差の激しい日が続き季節が分からなくなってしまいそうな昨今だが、競馬の世界では番組で春夏秋冬を感じることができる―。清水成駿が亡くなり予想が見られなくなって以来、滅多なことではGⅠしか手を出さない親爺が一昨年の「札幌記念」を買って儲けたことがあった。

それというのも、今でこそ常連の仲間入りしているが「頑鉄」に初来店した横山の一言“今週は「札幌記念」かぁ。ぼつぼつ秋刀魚の季節ですね”がキッカケだった。親爺いわく「とのさんが札幌に行っていたし、清水さんが言う社台戦略を思い出して、つい買っちゃった」。縁は異なもの味なもの…といえば、大体が男女の機微を示すものだが、横山が親爺と遠野に心酔したのはそんな縁があってのこと。当然、以後は横山も清水と、その考え方について勉強をし、予想の研究も怠らないらしい。

遠野がそんなことを思い出したのは、気分も良く小満のこの日21日の空気があまりにも爽快だったからだ。日比谷線への乗り換えが面倒なせいもあって、東銀座からゆっくり歩いた。<競馬会も「薫風S」とは巧く名付けたもんだ>。もっとも、レース当日と翌27日の「ダービー」がこんなシチュエーションで季節を実感させてくれるかどうかは定かではないが…。

「遅い時は気にしないでやっといてくれ」という遠野の真意も了解してくれてるようで、この日も「ザッツ」の、いや経理の梶谷も居ることだし、正確にいえば「TMC」の連中はビールと「黒霧島」の焼酎で始めていた。

「すまんすまん!」と手刀を切り、壁側にいる梶谷の後ろを回って横山の前に腰を下ろした。全員が口々に「今晩は」「お久し振りです」「先にやってます」と言い、それぞれのグラスを持ち上げた。遠慮があるのか、それとも“親しき仲にも…”なのか、さすがに「洗心」は鎮座してない。お通しはちりめん山椒とモズクあたりのようだ。

お絞りを使い終えた時に「ほい。いらっしゃい」とのかけ声とともに親爺が4合瓶を抱えて席にきて「とのさんも、とりあえずこれでいい?」とお通しを指さす。遠野がお通しを拒絶する理由はない。ただ瓶が違う。酒が違う。「へへっ。今日はいいアスパラガスと米沢牛を仕込んだので、酒も山形にしたよ。たまにはシャレでいいだろ」。そういえば、この間も“福と富は長く”とか言って「富久長」という広島の酒を用意してたし、親爺自身が、この会合を楽しんでいるみたい。山形ならてっきり「十四代」か「初孫」かと思ったのだが見ると袖が大吟醸・山田錦で銘は「東光」とある。

<待ってました>とばかりに梶谷がまじまじと見詰める。「じゃあ、おまさちゃんから」と遠野が酌をした。「えっ!私が…。口開けでいいんですか」。一瞬ためらった様子だが、その時にはグラスを遠野に向け半分差し出している。「どうぞ」。遠野が注ぐと、すかさず「はい遠野さんも」と。「では」と同時に言い口をつけ、ゆっくり味わった。「チョッピリ甘いかな。でも香りが爽やか」。首をひねった梶谷だが、飲み込んで気付いたようで「おじさん!ごめんなさい」と謝り、慌てて瓶を持ち上げた。

普通なら唖然呆然だが、親爺の「有り難う。やはりおまさちゃんの酌で飲む酒は旨いよ」で、全員が納得するのだから梶谷のキャラは素晴らしい。定番の刺し身に続いて出てきたのは焼いた紫アスパラガスだ。これがまた、柔らかく、それでいて歯切れが良く甘い。冷酒にピッタシだ。

「ところでオークスはどうでした?」。横山が切り出した。「どうしたもこうしたも、桜花賞の親爺と一緒でケンだよケン。社台のパシュート馬券は買う気がしなくてな」「へぇ凄いですねぇ」「昔は親の仇みたいに馬券も買ってたけど、今は集中力も欠いて検討するのが辛くて」と苦笑する。

黙って頷いていた親爺だが「でも『ダービー』は買うだろ。『皐月賞』と同じエポカかステルヴィオでいいかなぁ」「いいんじゃない。ただなぁ~」。遠野が呟くと、梶谷以外は箸を止め、先を促すように顔を見た。「おいおい。あまり真剣になるな。だから何だ、と訊かれても困るんだが『皐月賞』前はダノンが挫石で回避、『天皇賞』は豊ちゃんが、そして今度は親爺を儲けさせてくれたサンリヴァの藤岡が騎乗停止だろ…。大一番で何事も起きなければいいけど、と思ってな」

昔はタカツバキの落馬事件、マーチスの接触不利、ロングヒエンのゲート飛び出しで大外発走…。ファンが納得できない「ダービー」を目の当たりにしてきただけに直前に起きたアクシデントの連続に不安を覚えているのかも。

遠野さんは何をお買いになるのですか」と横山。遠野の心配は全く気にしてない。「オレか?。親爺と一緒だが、今のところステルヴィオを軸にしようかと。こっちの方が配当も良さそうだしな。もっと欲をかけば横山君のステイフーリッシュ」。横山に気を許したのか、冗談交じりに珍しく馬券を口にした。

「清水さんて方も『皐月賞で最速の上がりを使った馬は要注意』と書いていましたし34秒8で④⑤⑥着した3頭は不気味ですよね」。無難に応じた。前ノメリで訊きもしない能書きをタレない所が偉い。少し見直した。そこへ白アスパラの米沢牛巻きを、親爺自らが運んできて「横ちゃんの推奨馬は?」と。気を遣われているとは露知らず「やはり軸はダノンでしょう。第一…」。喋りかけたのを手を振って遮ったのは梶谷だ。「説明を聞いても分からないし、おじさんと遠野さん、それに横山君に1000円ずつ乗るからよろしく」と言い3000円を取り出すとテーブルに置き、その手で牛巻きの串に手を伸ばした。

社内の最新情報はまだ出てないし、ビールの井尻を除く他の連中も焼酎から冷酒に移動。

旨い肴もまだまだ続きそう。これでは「洗心」の出番も近い。季節感はともかく、時間の感覚はなくなってしまうかも。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。