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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年03月28日(水)更新

心地好い居酒屋:第39話

白秋といって、秋は一般的にはもの悲しく、人生でいえば知命(50歳)~従心(70歳)の時期であり老いを感じるとともに、これまでの生き方を振り返り、天命を知り、さらに残り少ない今後をいかに生きるべきかを模索する……とも言われている。対して春の色は青。志学(15歳)~而立(30歳)、つまり朱い夏に向かって勢いが増す季節だ。

にも拘わらず玄冬(70歳)を迎えた遠野にとっての節目は秋の紅葉より春の桜である。<今年も紅葉を観た>との感傷はないが、桜を観ると<また一年生き長らえたか>と感謝もし、愛でることも楽しい。来年も観たいと思う。欲張りと知りつつ…。

そんなこんなで、今年も「頑鉄」に行く途中に回り道をして築地川公園に立ち寄った。この日(26日)は先週の寒さが嘘のような暖かさで、満開でもあり広場は花見客で埋め尽くされていた。歓声、嬌声、怒声、罵声…雑多な喧噪は決して耳障りではなかった。むしろ微笑ましく感じられた。

振り返れば「TMC」と築地川公園の誕生はほぼ同時期。桜の植樹もその頃だ。いずれにせよ「TMC」と桜は一緒に育ってきたわけで、それだけに、どこの名所より思い入れは深い。手入れと桜の種類次第だが、桜は“木”としては成長が早くて寿命は短いとか。果たして「TMC」はどうなのか。確かに早々と開花した。しかし今は?ちゃんとした手入れはできているのかどうか。微妙ではある。

新大橋通りに出ると公園の騒音は車の音にかき消された。歩道を渡りながら時計に目を落とすと、約束の6時半を過ぎ、すでに7時近かった。チョッピリ急いだせいか「頑鉄」に着いた時は少々息が上がっていた。もちろん井尻、刈田、横山。それに梶谷は指定席にいた。<申し訳ない>気持ちだったが、親爺が寄ってきて「大丈夫?苦しいんじゃない」。周りに聞こえないよう尋ねるところが親爺の親爺たる所以。「心配しないで。すぐ落ち着くから」と手を振り席へ向かった。

嬉しかったのは連中がすでに始めていたことだ。前々から「仲間との酒席では最低限のルールを守れば上下は関係なし。遅れる方が悪いのだから時間がきたら始めといて」と念を押していたのだが、やっと真意が分かってくれたようだ。遠野が“すまん”と謝る前に全員が「お先やってます」と言ってそれぞれのグラスを持ち上げた。「ちょっと寄り道して桜を観てきたんだが、満開もさることながら人の多さにびっくりして見物時間が長過ぎちゃったよ」。言い訳しながら、梶谷の後ろを回って席に着いた。お通しはホタルイカだが、梶谷は食べ終えたみたいで、前にはマカロニサラダが。酒は「洗心」だ。

遠野が梶谷の酌で一口飲むや否や横山が口を開いた。「遠野さん!聞いて下さい。例の社台グループの連載は却下されました。ウチの梯(かけはし)部長も情けないですよ。最初は“面白そうだな”てな感じだったのに、いざ始めようとしたら『止めた方がいい』と。なんでも社台がらみの話で否定的な記事を書くと現場で取材し辛くなるそうなんです。そんな理由で企画をおじゃんにされたんじゃやってられないっすよ」。憤懣やるかたない様子で愚痴を零す。

「ふ~ん。これは梯の一存じゃないな。スポーツの金山の入れ知恵だと思うぞ。あいつはクラブの会員になってる可能性が高いし、レース部を牛耳ろうとしてるんだろ。井尻はどう思う」。ホタルイカを酢味噌につけながら訊いた。食べると辛子が利いてて旨い。

「自分も今日知ったんですが、普段から金山が局長に阿(おもね)り、梯が金山の言いなりなのは確かですからねぇ」。懐疑的だが否定はしない。同じ部長という立場から井尻なりの矜持もあるのだろう。

「金山は昔から競馬の記事にイチャモンをつけ、何かミスがあるとオレに言い上げていたしな」と遠野が言うと、初耳だ、てな感じで横山と刈田が続きを聞きたいとばかりに身を乗り出す。「あんまり、しつこいから、ある時『競馬の悪口はいい。そんな暇があったらテメェんところの蝿を追え』と言ってやったんだ。もっとも、おかげでオレから離れ、“ないことないこと”を言いふらしていたようだが」。苦い経験だが現役時代を懐かしむように目を細め黒鯛(チヌ)の刺し身を口に入れ新しい酒に手を伸ばした。

「局長の覚えめでたくオリンピックの時には他部署の人間まで動員、指揮を執ったので、その気になったんですかねぇ。今後、社会部の内容にまで口を出されたんじゃたまりませんよ」と刈田。最近は麦ではなく芋が気にいったようで「黒霧島」のロックを飲んでいる。

「そんなことは井尻がさせんだろ。なぁ井尻。しかし甘方は、盤石の態勢を敷くためにもこれまで以上にお前を味方にしようと懐柔の手に出るのは間違いないな。とはいえ、いくら仕事ができても公平、公正さを欠く奴に権力を持たせてはいかん。今後、井尻が甘方とどう向き合って仕事をしていくか楽しみだよ」。遠野が他人事みたいに淡々とした口調で言うと、すかさず梶谷が「遠野さんが総合政策室長時代にその権限で局長や金山さんの芽を摘んどいてくれれば良かったのに」と。「そうだな。無責任に辞めて悪かった」。真面目な顔で頭を下げると「やですよ。そんなにまともに受け取らないで下さい」。慌てて顔を横に振った。

困った様子の梶谷を見た親爺が機転を利かして「そういやあ、明日は証人喚問。佐川ってのはどこまで喋ると思う?。オレは多少の良心に賭けたいけどなぁ」と話題を変える。「親爺は優しいし、善人だなホント。『(職員の)自殺はニュースで知った』なんてほざく奴がまともに答弁するはずがない。昨日の馬券と一緒で親爺の賭けは確実に負ける、と思う」。“確実”と言いながら“思う”を付け足すのは如何なものか、だが遠野もまた一縷の望みを抱いているのかも。

佐川前国税庁長官も知命と従心の中間の耳順で60歳。役人として絶大な権力を一度握ると“帰りなんいざ”の心境に達するのは誰しも難しい。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。