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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年03月11日(日)更新

心地好い居酒屋:第38話

約束というのは本当に難しい―。遠野と井尻、それに才色兼備の女性2人を加えた4人の飲み会は大体が月イチ。それも金曜日がほとんどなのだが、何故か、その日に限って事件や事故、さらには天候異変で大雨だったりにぶち当たる。

そう言えば、今年の新年会(1月12日)は今冬一番の寒さだったし、前回は泰明小学校のアルマーニ騒動で井尻が記者会見に出向くことになった。それでも約束は守られたきた。しかし、この日(9日)は違った。

問題の佐川国税局長が辞任を表明、それを受けて麻生財務大臣が記者会見を開くという。遠野にしてみれば興味はあるが喫緊の仕事じゃなく<約束が優先>で出かけたのだが、その前に井尻から「申し訳ありませんがまたまた遅れます。雅子はいつも通りです」との電話が。

「構わん。おまさちゃんが居れば十分。忙しいようなら来なくてもいいぞ」と。正直な気持ちだし意地悪でもある。<確か、昨年の前川前事務次官の記者会見も金曜日の夕方で慌ただしかったなぁ>と思いつつ、6時過ぎに「頑鉄」に入っていくと、すでに左の席には4人の客の酒盛りが始まっていて、指定席の右奥には阿部京子と梶谷、そして親爺がちょこんと座り込んでいた。

「あらあら早いね。親爺も座敷に上がるぐらいなら一緒に始めておけばいいのに」。見ると3人とも焙じ茶を飲んでいる。「いやいや、とのさんを差し置いて…」。手を振りながら親爺は席を立ち酒と肴を取りにカウンターに向かった。

遠野は「ごめんなさい」と断り、阿部秘書の後ろを通り、隣に座った。前は梶谷だ。「実はウチの有村が宮崎に帰って。私も体が空いたので“梶”に連絡して早めに合流したんです」「そうかぁ。京子ちゃんちの社長も会社も新燃岳の噴火で大変だね」。遠野が火山灰の畑への影響を心配する。

「そうなんです。取引のある野菜農家や芋畑のことを考えると…。有村は居ても立っても居られないんだと思います」。阿部秘書は遠野に顔を向け眉を顰める。

どう返答していいか悩んでいるところへタイミング良く「ほい、お待たせ」と親爺がお通しと酒を運んできた。お通しは赤貝とキュウリの酢の物で酒は「今日は比較的暖かいから『洗心』にしたよ」と言い遠野、梶谷、阿部秘書の順に酌をし、そのままボトルを阿部秘書に渡し、自らグラスを差し出した。嬉しそうだ。

梶谷は赤貝を摘まみ、酒を飲み干し、<酌をしろ>とばかりに遠野にグラスを向けながら「大臣の記者会見ご覧になります?」と訊いた。「いや、いずれ井尻が来るか電話があるだろ。観ると頭に来るだろうから、あいつらを肴に飲んだ方が楽しいんじゃないか。なぁ親爺」「それにしてもひでぇ話だな。麻生が何を喋ってるのか分からんが、今さらって感じだよな。ほれ、いつだったか、とのさんが、『世の中を良くも悪くもするのは一に政治家、続いてマスコミ。次に役人と医者だ』と言ってたけど、まさにその通りの展開になってきた」。憤慨しきりだが、赤身のヅケと締め鯖が別皿で届くと、自分のも含め、それぞれの前に並べた。少し落ち着いたみたい。

「そうそう、前川次官の時は、京子ちゃんも『前川さんがあえて記者会見を開いたのは“マスコミしっかりしろ”の気持ちからじゃない!』と井尻に発破をかけてたけど、結局は加計学園もなし崩しに認可、入学試験も終わって今後は毎年補助金をタレ流すことになる訳だ」「あの時メディアが真っ当なら…。つくづく情けなくなります」。阿部秘書は親爺から酌を受け、ヅケに箸を付けた。

黙って酒を飲み肴を摘まみ、会話に耳を傾けていた梶谷が突然スマホを取りだし「あっ“高にい”だ」と言い「出ます?」。遠野は首を振って「聞いといて」。すると「うんうん。そぉ~。分かった。遠野さんに伝える」と言って電話を切った。

<どうした>って顔で梶谷に先を促した。「細かいことはともかく大臣は辞任を考えていないと断言したそうです」。全員が<やはり>で驚かない。驚いたのは、続いて出てきた若竹煮を食べた時だ。“添え物”とばかりに思っていた若布を口に入れた美女2人は、揃って「美味しい」と。続けて阿部秘書が「筍からは春、若布から磯の香りがしてシ・ア・ワ・セ」とニッコリ。

一時的ではあるが頭から新燃岳が消えたことは確かだ。もちろん酒の進みは早い。この調子だと「黒霧島」に移行するのは間違いない。もっとも、これで新燃岳を思い出したら元も子もないが…。

「今、栄螺(さざえ)のつぼ焼きやってるから」と親爺が言った途端、再び電話が。スマホを耳に当てた梶谷が「うんうん」と答えながら「じゃあ代わるね」とスマホを遠野に手渡した。遠野は「はい」と答え、「ちょっと待ってて」と言い、そのまま外に出た。5分ほど話しただろうか…。帰ってきて席に着くなり「官僚って奴はロクなもんじゃない」。怒り心頭の様子。「あ、今日は井尻は取材と原稿で忙しく来られないから」。

全員が不審気、不安気で遠野を見詰めた。「洗心」→「黒霧島」となっていたが、ロックで呷った。「佐川も記者会見したらしいんだ。でもな、その言いぐさが気に入らん。政治家も役人も墜ちたもんだ。詳しいことは不明だが辞める理由の一つに、去年の国会での対応の粗雑さを挙げたとか」「じゃあもっと早く辞めればいいことでしょ」と梶谷。遠野は頷きながら続けた。

「もっと腹が立つのは職員の自殺は『ニュースで知った』とほざいたらしい。自殺にまで追い込んだのは誰だ!血が通っているのか!」。静かにしていた親爺も嘆く。「また、とのさんの受け売りみたいで恐縮だが、『人間は良心から逃げることはできない』から、その呵責に耐えかねての辞職かとも、少しは思っていたんだけどなあ」

「明日はともかく明後日は大震災の日。大臣や総理もまさか大震災まで利用はしないでしょうけど、テレビも新聞も原因究明と責任追及については、ほとんど触れないのでしょうね」阿部秘書も悲しそうに同調する。

どうなることやらだが「最低というか最悪でも取りあえずは、財務省が認めて詫び、麻生も辞任しないと。いくら優しく、従順な国民とはいえ納得しないし許さんだろ」。遠野の怒りは収まらない。

「俺も、とのさんとは長いけど酒の席でここまで怒るの初めてだ。でもよ、とのさんは体にだけは気をつけてな」。相変わらず親爺の言葉には心がある。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。