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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年02月28日(水)更新

心地好い居酒屋:第37話

啓蟄も目前というのに、まだまだ“冬籠もり”状態の遠野だけに<陽のあるうちに>と思い早めに家を出て「頑鉄」に着いたのは6時前。もちろん客は居ない。勝手知ったる我が家みたいなもんで一人カウンターに座るや板さんに熱い焙じ茶を所望、一口啜り、誰にともなく「ふぅ~。やっと落ち着いた」。ほっとしたように呟くと「大丈夫かね。今日もまた変な天候だし、辛い時は無理しないで休んだ方がいいよ」。いつ現れたのか親爺が心配気に肩に手を添えた。

「ん?あっごめんごめん。体調じゃなくてオリンピックだよオリンピック。それなりに面白くて緊張する種目もあったが、そういうのに限って実況アナや解説者が大声で『ニッポン、ニッポン!ヨシッ!』とうるさくて…。それに新聞はお涙ちょうだい記事で感動を強制するし。伝えることはもっと一杯あるだろうに」

よほど頭にきていたのか、これまでの鬱憤を“理解者”の親爺に向けた。「そうだなぁ。京子ちゃん達と飲んだ日が開会式で昨日が閉会式か。丁度オリンピックの間、会ってなかったんだ。でも元気で良かった」。土、日以外テレビなんて観る時間はない親爺が相槌を打つことはないが、遠野の溜め息の理由が分かって納得した様子だ。

「そうそう。金曜日に木村さんが俳句仲間と一緒に来てくれてね。何でも佐賀の嬉野温泉に行ってたとかで『遠野さんに』と、お土産を置いてったんだ」「へぇ。パンちゃんも優雅だし律儀だねぇ。ところで何?」

「正月のとのさんのエビみたいに、日時指定で冷凍のイカシュウマイが店に届き、自分は4合瓶を抱えてきてね」と言うなり調理場に入り酒瓶を持って来て「これ」。見ると「大吟醸・万齢」のラベルが。「ほう~。初めて見る酒だな」「この酒蔵は、今でこそ唐津市だが、合併前までは東松浦郡にある田舎町で、そんなには出荷してないらしいんだ。俺もまだ飲んだことないし」「じゃあ、折角だ。あいつらが着いてからにするか」「そうだね。特に“おまさちゃん”が喜びそうだな」。ニッコリする親爺だがカーリングの「そだねー」じゃない普通の言葉からして、やはりオリンピックは観てないのかも。

<噂をすれば何とやら>で、ほどなく「TMC」の連中が到着。この日も遠野の前は横山で隣が梶谷、その隣がビール専門の井尻。横山の隣、つまり梶谷の前に刈田がしっかり席を確保した。結局は一番若い下川が端に座り焼酎係となった。間髪を入れず親爺が「万齢」とグラスを梶谷の前に置く。梶谷は興味津々、マジマジと見てゆっくり開栓「はい、どうぞ」と遠野と親爺に酌をし、親爺が梶谷に注いだ。飲み物が揃ったところで待ちかねたように口をつけた梶谷。「チョッピリ辛口かな」首を傾け「でも爽やか。幾らでも入りそう」。上機嫌で遠野に向け、注げといわんばかりにグラスを差し出した。

お通しは独活の酢味噌和えで「お裾分け」と言って蒸したイカシュウマイが運ばれてきた。「ほら。井尻も会ったことがある木村さんの差し入れだよ。日本酒も」。すかさず梶谷が「遠野さんて慕われているんですね」。上目遣いでチラッと舌を覗かせ、シュウマイに箸をつけた。

オリンピックに関しては連中も駆り出されたりしてウンザリだったようでホッとしている。何せ「TMC」は昔から年俸制で裁量労働制。残業手当なんてものはゼロだから。もっとも創立当初に比べると総体的に楽にはなっているのだが、刈田や下川は承服できかねる感じで「お疲れ。金山部長にいいように使われて嫌になっちゃう」とか愚痴を零し焼酎を酌み交わしている。

遠野は梶谷の酌を受けながら「横山君さぁ。ラージヒルのノルディック複合は観た?」

急に話を振られた横山はキョトンとして「ええ。ニュースで少し」「そうかぁ。あのレースは面白かったぞ。日本の競馬、特にGⅠやクラシックは早晩あんな形になるかもな」「……」「逃げた渡部1頭を二番手のノルウェーを挟んでドイツ勢3頭が追う展開になってな。あれで結果は見えた」。遠野は初物のアオヤギを摘まんで横山の反応を窺った。あえて“人ではなく頭”と言ったのがミソだ。

焼酎のロックグラスを片手に考え込んでいたが、グイと一飲みすると「なるほど。ドイツ勢3頭は渡部1頭に照準を絞り徹底マークしたってことですか」。なかなか回転は早い。これなら説明のし甲斐もある。

「その通り。ドイツの3頭はパシュートよろしく入れ替わり立ち替わりで風よけになり、体力を温存。勝負どころで前の2頭を飲み込み、G前3頭の競り合いに持ち込んだってこと。ドイツを社台グループに置き換えればどうだ!?」。珍しく一気に喋ったせいで喉が渇いたのか、氷水を飲み、続けてグラスの酒を呷った。

「もともと強いドイツが連携してペースを守り、脚をためられれば、確かに“末脚爆発”で差し切りは容易ですね」。横山が頷く。「ふ~ん。その結果が①②③着ですか」。ふいに横から梶谷の声が。続けて「遠野さんも熱燗でいいですか」と。「万齢」の四合瓶は空いたようだ。

「デムーロ兄弟やルメール。社台に忠実で、そこそこの技術のある乗り役がいれば、の話だが、決して考え過ぎでもないだろ」「そうですねぇ。グループの勝負服に憧れ、忖度する騎手もいるはずですし…」。引退した遠野はともかく現役バリバリの横山は将来を憂えたのか、難しくなる予想を考えたのかチョッピリ悩んだ様子だったが「千寿」の熱燗を親爺が仕切りの格子越しに手渡すと、前回で酒の味を覚えたみたいで「自分も下さい」と。続けて「親方!暖かくなると休み明けの馬がゾロゾロ出てきますが、社台系の馬は人気薄でも買っておいてね」「心配しなさんな。GⅠしか買わんし、普通の重賞を買いたい時は横ちゃんに電話するよ。それより慣れない酒には気をつけてな」。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。