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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年02月14日(水)更新

心地好い居酒屋:第36話

立春を過ぎてから強烈な寒波が襲ってきたのだが、幸いにも3連休前の金曜日9日の東京は暖かさに恵まれた。そのせいかどうか、遠野が6時チョイ過ぎに「頑鉄」に着いた時、親爺は番台に座って煙草をくゆらせていた。

「おっ旨そうだな」。遠野が冷やかすと「ごめんごめん。早かったじゃん。気がつかなかったよ」と言いながら揉み消そうとする。「そのままそのまま。部屋の中じゃないんだから気にしないで」。手で制し遠野は風上に腰を下ろした。「煙草も旨いウチが花だよ。こっちは我慢じゃなくて旨くないし、喫う気にならないんだから嫌になっちゃう」「そんなもんかねぇ。俺なんか煙草は楽しみの一つだからなあ。その楽しみがなくなったとのさんに同情するよ」「やっぱり息苦しかった事を脳が覚えていて喫煙を拒否するんだろうな。そんなだから人が喫う分には全然…」

煙草談義で時間を潰しながら、ふと右側、新大橋通り方向を見ると、阿部秘書と梶谷の姿が。「お嬢達がきたぞ」。遠野が声をかけると親爺、すっくと立ち上がり、遠野の前に出て、出迎えるような形になった。現に近づいた途端「いらっしゃい」とニッコリ。ドアを開け、二人を店に押し込み後に続いた。遠野は置いてけぼりだ。

「お邪魔しま~す。ところでおじさん達は外で何のお話を?」とは阿部秘書。「別に大したことは…。なぁとのさん」。話を振られた遠野は「いやね。泰明小学校のアルマーニの一件で憤慨してたとこなんだ」。納得気味の二人とは対照的にキョトンとした親爺を無視、遠野はさっさと上がり奥に座った。この日の席は前が梶谷で隣が阿部秘書だ。「そうそう。“高にい”はその泰明小学校の校長の記者会見に行ったので少し遅れます」と梶谷。

普通なら直ぐに親爺自らお通しと酒を持って来るのに、親爺は調理場に入り、替わりに仲居が仲居の仕事をした。どうやら親爺、泰明小学校とアルマーニのレクチャーを受けてるようだ。<冗談がきつかったかな>。お絞りを使いながらチョッピリ反省し、仲居に「いつもの熱燗をお願い」。お通しは牛蒡サラダだが、親爺が特別に何を用意しているのか楽しみではある。

以前から親爺が「最近は3連休前の金曜日は意外と暇なんだよ」とボヤいていた割には、仲居を休ませていないし、「予約席」の札もあるところを見ると、忙しくなるのかも。他人事ながらホッとして「親爺!早く来なよ」。遠野が呼ぶと、お盆を持ってやってきて、3人の前に小鉢を並べた。小鉢の中身はピンクがかった白い筋みたいなものだ。そこへ「千寿」の熱燗徳利が2本届いた。「まずは一献」と親爺が阿部秘書、梶谷、そして遠野に酌をし、自分も、とばかりに手元に引いた徳利を阿部秘書が取り上げ「はい。おじさんも」。大喜びで酌を受けた後「ゆっくりして行ってね」と。「続けて、これは“鮫の軟骨の梅肉和え”。京子ちゃんもおまさちゃんも食べてみて」

二人は初めてみたいで、少しだけ摘まんで口に入れ味わう。「酸っぱいような甘いような…。それに軟骨のコリコリが面白い」。二人して満足な様子で、熱燗を飲み干すと再び軟骨に箸をつけた。

「ほれ。とのさんも知ってるけど珍味屋の大谷さんが、最近頻繁に顔を出してくれて。今日も4人で予約が入ってね。自分も付き合った訳。“唐墨”も仕入れているから井尻さんが到着したら出すよ」。“どうだ”と言わんばかりに胸を張った。遠野が「恐れ入ります」とふざけると梶谷が「高にい、早くこないかなあ」。“唐墨”が待ち遠しいようだ。

その瞬間ドアが開いた。「来た」って感じで梶谷が振り向いたが阿部秘書は知らん振り。

見ると大谷一行だ。大谷は目敏く遠野を見つけると席に近づいてきて「久し振りだねぇ。とのさん元気してた?」「おかげさまで何とか」「良かった良かった」。ここまでは上々だったが、二人に顔を向けるや「綺麗なお嬢さんを侍らせて羨ましい限り。これじゃあ北朝鮮の美女応援団も真っ青。(オリンピックの)開会式も公演もテレビ観戦は必要ないな」「おいおい。大谷さんよぉ。堅気のお嬢さんにいきなりそれはないよ。まずは挨拶でしょ」「失敬失敬。あまりにも可愛いもんだから、つい調子に乗って…お嬢さん達もごめんなさいね」。今度は平謝りで自席に向かった。

「あれだからなぁ市場の連中は。でも悪気はないからね」。言い訳と説明に必死の親爺に対して「気にしない気にしない。あの人、正直なだけでしょ」。梶谷が言い放ちニッコリ笑い、飲み干した猪口を遠野に差し出した。

間を置かずしてドアが開いた。今度こそ井尻だ。「遅くなって申し訳ありません」。頭を下げながら席に着いた。親爺はすでに立ち上がっていて、早速ビールとグラスを持ってきて井尻に注ぐ。一杯飲み干したのを見計らって遠野が訊いた。「どうした?どんな奴だ。その校長てのは」「制服ではなく標準服だから強制はしません。でもウチに通う子の保護者の方にはきつい負担とは思えませんとか…言うことがメチャクチャで。それに銀座の学校らしくビジュアルアイデンティティを大事にしたい、とか」。メモ帳を手にビールを口にする。「何だ。そのビジュなんちゃらとは」。レクチャーを受けたらしい親爺が話に参加した。「ふ・く・い・く(服育)教育らしいんですが、最初は馥郁で『銀座の香り』かと思いましたよ」。急いで来たせいか興奮しているのか井尻の説明も要領をえない。

梶谷は井尻が軟骨を食べるを確認して「おじさん!“唐墨”は」と催促。すかさず阿部秘書が「私も。そんな見た目校長のことより今は“唐墨”が大切です」。親爺、二人に言われたんじゃ仕方ない。とりあえず席を離れた。

「教育勅語を暗誦させる教育者が居て、それに感激して学校の設立を応援するような政治家が存在感を増すご時世。日本の教育者も地に墜ちたもんだ。そいつらの頭の中、脳味噌がどうなってるのか拝見したいもんだ。なぁ親爺」。席に戻った親爺に煙草談義=脳の働きの続きを問いかけた。

井尻は阿部秘書に甘方と別部の動きと社長の反応を訊きたかったのだが、さすがに現時点で切り出すのは憚るようで、ビールを飲み、刺し身を食べながら<どう原稿をまとめるか>頭を悩ませている。いずれにせよ、長い夜になりそうだ。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。