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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年01月14日(日)更新

心地好い居酒屋:第34話

昨暮れから昨日(11日)までの遠野は、まさに<羹に懲りて膾を吹く>――状態。センター試験を目前にした受験生の親も驚くほどの健康管理に努めた。

朝はベランダで太陽の光を浴びての屈伸運動と深呼吸。朝食前に血圧と脈拍、さらには酸素の血中濃度の計測を済ませ食卓に。食後は医師から処方された薬を服み、しばらくしてリハビリ体操を。その後テレビか新聞、読書で時間を潰していると昼食だ。しっかり食べた。

午後は陽の当たる場所を選んでの散歩。しかも、できるだけ人も車も少ない川沿いの道をゆっくり歩いた。“煙草より車からの排気ガスの方がよっぽど人間にとって害毒”との思いが強いし、空気が乾燥していたこともあってマスクは必需品だ。

電車に乗っての遠出はよほどのことがない限り控えた。さらにいえば、もともと鼻づまりの気もあったので耳鼻科にも週に一度通って洗浄してもらい点鼻薬ももらった。“鼻呼吸が少しでも楽になれば肺にもいいのではないか”との素人考えであるが……。禁煙と節酒は言わずもがな。その他もろもろを含めると遠野の人生の中で、これほどの節制は初めてのことであろう。救いは中央競馬。その点では暮れと正月の三日間競馬に助けてもらった。

ま、そんな競馬の楽しみより、こんなにも規則正しい生活を送れたのも、すべて12日の“新年会”のため。暮れの8日の“事納め”では梶谷が雨の中、迎えにきてくれて「だって、今日は4人の忘年会でしょ」と微笑み、宴の後は「新年会は鏡開きの次の日、12日にしましょう。決定!よろしく」と阿部秘書がおどけ気味に敬礼。親爺は異論のありようもなく、「任せなさい」と胸をたたく。

こんな背景があっての年末年始だ。どんなことがあっても気胸を再発させてはならない。2ヶ月前の10月6日には季節外れの寒さと豪雨にもかかわらず4人が揃い、親爺から「“なんちゃらの(尾生)信”を思い出して」と言われたこともあった。そんな信頼関係の中で体調を崩す訳にはいかない。事情を話せば皆、分かってくれるだろうが、やはり約束は守りたい。

余談だが、飲み代は女性2人プラス親爺の3人は2000円。遠野と井尻が1万円を上限に残りを払うのが一応の取り決め。しかし、豪雨の日は「得月」を3本、岩手の松茸土瓶蒸しも用意していた。忘年会では「海鼠腸」があった。親爺の心意気も嬉しい。

そして待ちに待った12日――。これがまた寒くて寒くて。今冬一番の寒気とか。何の因果か、4人の会合日は大雨だったり極寒だったり…。<楽しみには試練が憑きもの>。割り切れば嘆くことはない。遠野はしっかり重ね着をして出かけた。

7時ちょい前に着くと、すでに全員が揃っていていつもの席で発砲スチロールを覗き込み、指を差し込みオッ、キャアだのの声が。「届いたか」と呟き近寄った。遠野が大分は姫島の車海老を時間指定で注文していたのだ。誰もが「元気ですねぇ。まだ跳ねてますよ」と。

見ると机の上に敷いた新聞紙の上にオガクズが散らかっている。「まず刺し身で、次はフライ。頭は唐揚げか味噌汁だな。旨いぞ」と遠野。そこへ親爺が顔を出し「明けましておめでとうございます」と。そうだ。エビに気を取られて正月の挨拶が遅れていた。全員が顔を見合わせ“おめでとうございます”。親爺は「これはとのさんからのお年賀」と言い、箱を調理場に運び、代わりにお通しを持ってきた。

阿部秘書が「わぁ綺麗」と言えば、梶谷は「美味しそう」とニッコリ。出汁が染みこんだ「数の子・叩き牛蒡・田作」が整然と並んでいる。お通しというより“酒肴”と呼ぶにふさわしい。親爺得意の懐石を偲ばせる逸品だ。

酒は「千寿」の熱燗とビール。とりあえずグラスに満たせ、親爺ともども改めて挨拶を済ませると、「エビは皮を剥くのに時間がかかるから、とりあえずの刺し身はイカと鰤で勘弁な」と言い引っ込んだ。

席順は壁側に遠野と井尻。土間側に梶谷と阿部秘書。忘年会時ほどじゃないが、そこそこに客は入っていて遠野と目が合うと軽く会釈する男もいる。「ところで今年は連中きたの?」。田作(ごまめ)を摘まみながら遠野が甘方と別部の行動を訊くと「ええ。5日に二人して。それよりビックリは昨年暮れのこと。有楽町店に別部さんが3回も団体で入らしたらしいんですよ」と阿部秘書。“それで”って感じで遠野と井尻が先を促す。

「有村が言うには『別部クンは軽い所はあるが性悪ではなさそうだね。懸命さも伝わるし月イチぐらいはお付き合いしようか』と。局長については触れませんでしたけど」。

「で、6日にその事を伝えた訳だ」「ええ。『別部部長にはご贔屓にして頂いていますし、とりあえず月イチでお願いします』と言って」。秘書はそれ以上は“興味なし”って感じで突き放すと、梶谷が引き継ぎ「折角の新年会で『TMC』の社内話をしてもつまんないですよ。“高にい”も、そんなの気にしないで今日は飲もう。遠野さんもどうぞ」と熱燗を取り上げた。

「ありがとう。おまさちゃんの言う通り。恐れ入りました」。遠野が頭を下げると、親爺がやってきて「仕事さえキチッとやっときゃ何とかなるさ」と言い、エビの刺し身をテーブルに置いた。

早速、箸をつけたのは阿部秘書で、口に入れひと噛みすると「芯があってプリプリ。それに甘い」と絶賛。「京子ちゃんに褒めてもらえると嬉しいねえ。なぁ親爺」「ヘヘッ。俺も一杯もらおうか」と猪口を差し出した。井尻も吹っ切れたようにビールを注いで、エビも食べ「ホント。旨いです」。

それからはNHKの“西郷どん”は当然ながら昨今の事件、事故、出来事などの四方山話で座は盛り上がり、阿部秘書は「黒霧島」のお湯割りを注文。元気が出てきた遠野は、珍しく黒霧をロックで飲んだ。いかにも“サケ”という辛味と喉越しを楽しむ。続いて運ばれてきたエビフライには井尻が真っ先に箸を着け一切れをパクリ。「アッチチ」と慌てて口から自分の取り皿に戻し、ゆっくり食べ直した。「これも旨いです」。感激の態だが、続いて「冷たい刺し身も熱いフライも旨い……。この食感こそが<人口に膾炙する>ということですね」。やっと井尻の“知ったかさん”が聞けた。とはいえ<俺はその膾を吹いていたんだ>。遠野は一人ごちた。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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