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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年11月29日(水)更新

心地好い居酒屋:第32話

さすが「頑鉄」の謂われの一因ともなった頑固なだけのことはある。例のサブちゃんの山口入り以来“サブちゃんが選挙の応援とは”と釈然としなかった親爺。「天皇賞」は大雨の道悪ということもあり、馬券は参加せず。

結果が馬連900円の本命サイドとあって、勝たれた後も納得。むしろ美人秘書=阿部京子への義理が立ったと、すがすがしさすら感じさせた。しかも、あの強さを見せつけられた後も「残りは『ジャパンC』と『有間記念』の2戦らしいがキタサンブラックは買わない」と宣言。

そして迎えた昨日の「ジャパンC」―。キタサンブラックは210円の1番人気だったのだが…。

「いやぁ~。あれほどドキドキ、ハラハラで興奮した競馬はなかったよ」。遠野と会った途端の第一声だ。言葉と顔、声から判断して頑なに宣言を守り通したみたいだ。「思わず『2番2番!差せ差せ!やったぁ』って声が出たよ」。いまだ興奮醒めやらずの態。

「良かった良かった。もちろん①②は買ってるよな」「ああ取ったさ。でもよぉ。落ち着いて掲示板を見たら④着がマカヒキじゃん。あれが③着に来てくれれば3連複も当たりで大儲けだったのに」とブツクサ。欲というものは恐ろしいもので「やったぁ」と叫んだ同じ口から愚痴が出るとは。

「いやいや。誤解しないでよ。“タラレバ”じゃなく、ほらマカヒキは去年清水さんが最後のダービー予想で“一強”と断言してたし、もともと『ジャパンC』は得意。生きてれば◎かなと思って。レイデオロは『ダービー』前にとのさんが珍しく強調してくれただろ。だから2頭軸で5点買っといたの」。遠野が苦笑いし首を傾げたのを見て、親爺が先回りの言い訳をする。

「じゃあマカヒキからも馬連を買ったんだ」。遠野は「千寿」の熱燗を手酌で注ぎ足し口に運んだ。「そう④はなしで6点ずつ。だから②⑪は他の馬連の倍持ってた訳」「なるほど。親爺は偉いなぁ」。氷頭膾(ひずなます)に箸をつけながら遠野が褒めた。

「へへっ。競馬は楽しみだからね。それにしても昨日は一瞬、我を忘れたよ」。整合性というか説得力はある。

「さてと…。今日は何人?」。予約の人数を訊くと「5人で受けてるよ。他に2組かな」「じゃあ、これは早い者勝ちのオレだけってこと?」と氷頭膾を指さした。「うん。鮭が高くて…。面目ない」とハゲ頭を搔いたところにゾロゾロ5人がやってきた。遠野は、親爺の配慮に感謝しながら残りを平らげると猪口とお銚子を持ち席を移した。

遠野が奥に座ると梶谷は、ちょこんと前に陣取った。梶谷の隣は当然のように刈田が座り、その隣が横山。遠野の隣に井尻、下川が。まずは梶谷が「私も遠野さんと同じ熱燗お願い」と注文。後はお決まりのビールと焼酎だから店側も楽ではある。

来る途中から話していたみたいで、飲み物にお通しのふろふき大根が行き渡ると横山が口を開いた。「椎名が見て聞いて報告してきたんだから間違いないですよ」。ちょっぴり興奮気味で声もいつもより大きい。

「ジャパンC」の翌日というのに、競馬じゃなく社内の話題から始まるのだから、よほどの“事件”があったみたいだ。遠野が梶谷を窺うと、右目を軽く瞬きして、ふろふき大根を食べた。「わぁ~美味しい。柚子の味と香りもいい感じ」とニッコリ。

これで分かった。「完庶処」の広告の件で動きがあったのだろう。梶谷が遠野の前に位置したのも“4人で存分に議論して下さい”の意味を込めてだ。

「別部さんはもちろんですが、甘方局長も冴えない表情で、藤並局長(広告)に弁解していたとか」。いつも藤並!と呼び捨てにし、大手を振って歩いている甘方だけに周りが不思議がるのも無理はない。

「そう言えば、局長は先週の金曜日も4時ごろ出て行ったきりで、帰ってこなかったし、今日は逆に出社は3時ごろで編集会議にも顔を出さなかったなあ。何か知ってます?部長」と刈田が井尻に尋ねる。「いや…特には」とモゴモゴ。

梶谷は我関せずで、お代わりした熱燗徳利を持ち「どうぞ」と遠野に酌をし、自分用にと猪口を差し出す。「お、気が利かなくてごめんごめん」。遠野が徳利を持ち上げた。お互いに鯛や鰤(ブリ)、鮪の刺し身を摘まんでは飲みで“二人の世界”に。親爺は新しく入ってきた客の応対に追われている。

「そうですよねぇ。別部さんだけの失態なら局長が藤並さんに気を遣うとは思えませんし…。椎名さん情報は無視できませんね」。日頃は寡黙でぼぉ~としている下川だが、意外にも見ている所は見ているようだ。「でも一の子分を自認している金山(運動部長)さんは平常通りだったよ」と、刈田が誰にともなくつぶやき、やっとお通しに箸をつけた。

「もう冷めたでしょ」と梶谷がふろふき大根同様冷めた口調で咎めると「でも美味しい」。惚れた弱味もあってか機嫌を損なわないよう、言葉を選んで返答をした。それを聞いた梶谷が、話に参加した。

「あ、そうそう5時前かな。藤並さんが小池局長の所に来てたわ。何かこそこそっていう雰囲気だったけど、話をした後、局長は一人思い出し笑いなんかしてたみたい」。井尻は梶谷の言葉をどう解釈していいのか、好きなビールを飲むのも忘れて、遠野をチラッと見た。

そこへ猪口と一緒に親爺が戻ってきて「“おまさちゃん”!一杯ちょうだい。すぐ煮物ができるからね」

「そうだ!親爺『ジャパンC』取ったんだって。それでも『マカヒキが③着にきてくれれば』なんて欲をかくんだから嫌になっちゃうよ。ま、欲には頂上ってのはないから仕方ないか」。遠野が言い、皆を見渡すと「えっ!キタサンブラックが負けたのに」と横山。美人秘書と長州の関係を知らないだけに親爺の宗旨変えに気がついてない。「すごいだろ親爺は。キタサンを見切ったんだから。予想の名人だな」と遠野が冷やかす。

“それにしても”と遠野は思う。広告の一件で甘方の評価が落ちれば、役員を諦めていた他の局長連中もソワソワしてくるんじゃないか。ロクな仕事もできないくせに権力や地位にしがみつく奴が多くなったような気がした。<隴(ろう)を得て蜀を望む>か――。独り言である。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。