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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年09月05日(火)更新

心地好い居酒屋:第27話

遠野が約束より早く「頑鉄」に着くと、親爺は縁台で煙草を吸っていたが、すぐにもみ消し、「やっぱり競馬は難しい。新潟記念だって社台と分かっていて取れないんだから。社台の出走馬が多すぎるよ」。どうやら軸を間違えたみたいだ。

「まあまあ。そうボヤきなさんな。清水さんに笑われるよ」。窘めると「違ぇねぇ」と苦笑いしながら二人して中に入り、カウンターに腰を降ろした。

カウンターには、ほぐした毛蟹と「八海山」の大吟醸が置かれている。遠野は懐から清水の写真を取りだし湯呑み茶碗に立てかけた。まずは清水のグラスに、続いて親爺、自分に「八海山」を注ぎ、小さな声で「献杯」と言い一気に飲み干した。

4日は清水の月命日である。先月の祥月命日に行けなかっただけに、親爺はこの日を待ちわびていたようだ。

「この間のとのさんの言葉を真似する訳じゃないが、清水さんは居なくてもチャンと札幌記念も新潟記念もいつも通り行われたんだよなあ」。去年は札幌記念で儲けたせいか“清水讃美”だったが、今年は打って変わってシンミリしている。

そんな状況など、全く関係なしに「今晩はぁ~」と元気よく入ってきたのが「ザッツ」の連中だ。「おう。きたか」と遠野は清水の写真を懐にしまい、指定席の方に向かった。

遠野が壁際の奥に進むと梶谷が続き、土間側には横山、刈田の順に座った。対面(といめん)が横山ということになる。その隣の刈田が「申し訳ありません。部長は少し遅れます」と頭を下げた。

「久しぶりだね。梶谷さんも元気だった?」。先月金曜日のに飲み会は内緒事だけに、さり気なく訊く。「あのぉ~。すみませんが、その“梶谷さん”は止めていただけます?会社に居るみたいで、なんだか堅苦しくて…」。

そんな声が聞こえたのだろう、遠野の到着をを待って、仲居と一緒に「洗心」と「吉四六」を運んできた親爺が「そうだよ。昨日今日来たわけじゃないし、ウチには珍しい可愛いい常連さんなんだから親しく呼ばなくっちゃ…。そうだ!“おまさちゃん”はどう?うん、それがいい」。親爺、勝手にいつもの愛称で決定した。梶谷は「嬉しい。それでお願いします」

もっとも、これなら金曜の飲み会の続きみたいなもんで、呼び方で周りに気を使わないで済むのは有り難いが、刈田はなんとも釈然としない様子だ。もちろん、親爺はそんなことは意に介せず「これらは今年最後かも」と言いながらサービスの茶豆とトウモロコシをド~ンと置いた。

グラスが運ばれてくると梶谷が「洗心」を取り上げ「そういうことで今後もよろしく」と遠野と親爺に酌をする。微笑んだおちょぼの口からチョッピリ舌先がのぞいた。愛らしい表情だ。思わずドキッとし「あ、こちらこそ」と返し、梶谷に注いだ。焼酎の二人も準備が整い、「久しぶり」でとりあえず“乾杯”となった。

「先日はありがとうございました」とは「是非に」の要望で盆前に会った横山だ。「いやいや大した話じゃなくすまんな。どうだい?調べは進んでる」「それが、なかなか」と頭を搔く。遠野はしらす&キュウリとワカメの酢の物をつまみながら「当時を知ってる人はほとんど亡くなってるし、人物本ってのは、だいたいが提灯ものだから、あまり役には立たんしな」。“この調子じゃあ取材にも期待できないなあ”風に答えたが…。

「個人情報がどうのこうので2005年を最後に“長者番付”(高額納税者)の発表が中止されましたよね。その時点で社台は照哉氏が約9億円の納税で9位、勝巳氏は7億円弱で19位…。当時より社台の寡占状態はひどくなってる訳ですから、今やいくらになっているやら」。ため息まじりに横山がつぶやく。本当に興味があるみたいだ。

相対している隣の二人は経費の使い道について、あれこれと問答している。「都内はタクシーより電車の方が便利で速いってのが小池局長の見解ですから。私もそう思うし、編集の人はタクシーを使い過ぎです。甘方局長は部下に良く思われたいもんだから。それこそ甘いんです」。正論だからか、それとも“惚れた弱味”か結局は梶谷に言い負かされたようで、黙って茶豆を口に入れた。

梶谷の声を耳にしながら遠野が言う。「今、番付発表しても連中は親子夫婦で分散してるし、結構経費で落としているだろうから個人の納税はそんなに増えてはいないんじゃないか。金と名誉はあればあったで大変だよ」。

横山は不満そうな感じで焼酎のロックを口にしていたが「善哉さんだって…」と遠野が言いかけると急に真剣な顔つきになり、身を乗りだし黙って次の言葉を待っている。

「善哉さんが亡くなったのは平成5年の8月。確かそれまでは長者番付の上位に名前は無かったと記憶しているが、翌年には14億円余りでベストテン入りしてるんだ。何故か分かる?」「……」。急に静かになった隣に疑問を持ったのか梶谷が「どうしたの?競馬の話は終わりですか?」と。

「いや実は…」遠野が説明すると「あ、それ準確定申告でしょ」。遠野は梶谷に任せた。横山と刈田は怪訝そうな顔をする。「あのね。亡くなると遺族は4カ月以内に本人に代わって確定申告して、納税しなくてはいけないの。ただし、それは相続人の債務に計上できるから、正直に申告したんじゃないかしら。お金のある人達はいろんなこと考えるのよ」。

二人は唖然呆然の態。親爺が「いい鰈(松皮鰈)が入ったから」と自慢気に持ってきた刺し身を取ろうとしていた箸が止まったほど。続けて遠野が補足する。「善哉さんは『長者番付に載りたくなければ、確定申告を遅らせればいい』と言ってたらしい。もちろん、その分の延滞利息は払うんだけど。でも、8月に亡くなったんじゃ、さすがに確定申告を4月にはできないだろ」「目立ちたくなかったということですか」「それは何とも言えん。本当にベストテンとかに入ってなかったかもしれんし、別の考えがあったかもしれん」。横山は「う~ん」と唸り考え込んでいる。

「人の銭金はともかく“おまさちゃん”はすごいねぇ。『TMC』あたりに置いとくのは勿体ないよ。なぁとのさん」。「あら、私は物ですか」と拗ねたが顔は笑っている。そこへ真ん中から斜めに切って重ねた秋刀魚の塩焼きが四皿。見た目も綺麗でいかにも旨そうだ。

「今年の初物です」と梶谷が喜ぶ。「自分もです」とは横山。「あれ!横山クンは札幌記念の時には食ったんじゃないの。『競馬の番組で季節を知る』とか言って、札幌記念と秋刀魚はリンクするんじゃなかったの?」。遠野も意地悪ではある。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。