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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年08月20日(日)更新

心地好い居酒屋:第26話

久々に雨にも降られなかった金曜日18日の夕刻、遠野が汗をかきながら「頑鉄」に辿り着くと、珍しく縁台に親爺の姿はなかった。さすがの暑さに煙草より室内での涼を求めたようだ。現に先客は一組2人のみ。親爺はカウンターに座り「優馬」を広げていた。とはいえ、どうせ馬券は日曜日の重賞しか買わないのだから、検討に身が入ってないことは確か。時間潰しだったみたいで、遠野の姿を確認した途端、「優馬」をたたみ「思い切って長い盆休みで良かったよ」とニッコリ。

休み前の7日には「山の日なんか作りやがって仕事になりゃしない。面倒くさいから11日から16日まで休むよ」とボヤいていたのだが、その間、薄ら寒い雨ばかり。たとえ営業したとしても客は殆ど来なかったはず。“禍福はあざなえる縄のごとし”ほど大仰なことじゃないが、仕入れと人件費を考えると親爺が喜ぶのも無理はない。

「それにさあ。昨日は(わいわい旅行の)森山さんが例のメンバー4人できてくれて、ご相伴させてもらったよ」「懐石をやめたから森山さんも食う物がなくビールばっか飲んでたんじゃないの?」と遠野が森山の小食を心配する。

「へへっ。それが食べにきたんだって。もちろん好きなトマトは食ったけど、注文は湯豆腐なんだよ湯豆腐。『親爺ん所なら嫌な顔もせず出してくれるはず』と思ったらしいんだ」と言い遠野の顔を窺う。

「なるほど。戻り梅雨みたいで肌寒いことでもあり“梅雨の湯豆腐”を気取ったってことか」。

遠野が答えた。「さすが、とのさん。勘もいいねぇ」「森山さんと親爺の共通の話題は池波正太郎しかないんだし、わざわざ湯豆腐を食べに来るってことは、それしかないだろ」「森山さん、仕事がうまくいったらしく上機嫌だったよ」。親爺も懐かしい顔に会え、池波正太郎の話ができ、しかも客もそこそこ入ったらしく、これまた上機嫌だ。

楊子作りの名人で闇の仕掛け人・彦次郎が梅雨の夜、的を仕留めた後、一人借りている百姓家に戻って湯豆腐を肴に一杯飲(や)るというストーリーだ。昔、森山と飲み歩いてた頃、そういう事があっただけに遠野もピンときたのだが……。森山も恐らく仕事の成功を誰かに知って欲しかったのだろう。<鎌をかけるのが得意な森山さんらしいな>と思わず頬が緩んだ。そこへ「もちろん全員が『とのさんによろしく。近いうちに会いたいね』だって」と親爺の声が聞こえ、同時に引き戸が開いて阿部秘書と梶谷が入ってきた。

「お待たせしました」とは阿部秘書。続いて梶谷が「井尻は少し遅れます」と。「結構結構!座ろうか」と促し指定席に。

今日の飲み会は遠野からの誘いだ。前回は阿部秘書から“機会は待つんじゃなくて作るものでしょ”と言われての約束だったが、それこそ森山の“近いうちに”ってのも俗に“近メシ”と言ってなかなか実現しないもの。そこで、先月の帰り際に<近いうちに>ではなく<来月の18日はどうかな>となった次第。大した話がある訳じゃないが、かつての部下を含め、若い、それも頭の回転が速い美人と飲んで喋るのも一服の清涼剤ではある。ついでに昔馴染みの親爺も居る。

席に着くのを待っていたかのようにサービスの茶豆が、続いてお通しのイカとジャガイモの煮物が運ばれてきた。「茶豆もスルメも高いんだろ。いつも悪いねぇ」。遠野がわざとらしく囁く。「ふん。今更何言ってんだ」と親爺。美女達はニコニコしながら二人の遣り取りを楽しんでいる。酒はいつもの「洗心」だ。「とりあえず刺し身はツブ貝とイサキ。それにマグロでいいかな」。もっとも、良いも悪いも“とりあえず”は、だいたいが親爺任せだが。

4人全員が最初の一杯を飲み干したのを見計らっていたかのように、井尻が到着「お待たせして申し訳ありません」。頭を下げながら遠野の隣に腰を下ろした。親爺は立ち上がり井尻用にビールを持ってきた。改めての乾杯となり、口火を切ったのは遠野だ。「忙しい部長さんを呼び出して悪いな」「そんな。勘弁して下さいよ。“忘年の交”でいつも勉強させていただいているんですから」。井尻は頭を搔く。「ほぉ~。井尻から“忘年の交”を喜んでもらえるとはねぇ」。遠野は冷やかしながらも嬉しそうだ。

「高にい(兄)の言う通りで私も阿部さんも、このお店で遠野さんやおじさんとご一緒できるのが楽しくて嬉しくて…」。ねっ、って目で阿部秘書を見る。「ホント。“梶”に感謝しなくちゃ。飲み会が待ち遠しいなんて生まれて初めて。遠野さんやおじさんに会うと、毎回“お利口さん”が一つづつ増えるような気がして」。可愛い言い回しで阿部秘書が微笑む。

「おまさちゃんと京子ちゃんから、そんな言葉を聞くとオレ、何でもサービスしちゃうから」と親爺。論より証拠で、新しい「洗心」を見せびらかし「これは次回用。もちろん奢り!。とのさんと折半で。いいよね」。これには笑って頷くしかない。

「あ、そうそう。この間話題になった薩摩が長州を破った禁門の変が7月19日なら、その前年の今日は長州が京都を追っ払われた日(8月18日の政変)だと思うんだけど、社長のご機嫌はどう?」。遠野が訊く。「そうなんですよ。有村は長州に関係ある日はよく覚えていて、その都度『やはり長州は狡い、小賢しい』と」。 

「そういやぁ今日も中国、四国地方で避難訓練なんかしてたけど、まさか戦時中じゃあるまいし、何を考えているんだか。北朝鮮危機を煽り、結局は国民の目を加計問題から遠ざける積もりなんだろ」。親爺も長州嫌いになったのは間違いない。

「長州もそうだけど備前も性悪じゃないのか。ほら、関ヶ原で東軍に味方し、裏切り者の代名詞になった小早川秀秋なんてのは備前岡山じゃなかったか」。井尻に“よいしょ”されたせいか遠野が口を添える。

「似たもの同士ってことか。とのさんよぉ。こんな時こそ彦次郎の出番なんだが、今のご時世じゃ、そうもいかんし、井尻さんのペンに期待だな」

名指しされた井尻と美女二人はさすがに“彦次郎”の意味は理解できなかったようだ。怪訝そうな顔で親爺の次の言葉を待った。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。