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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年07月23日(日)更新

心地好い居酒屋:第24話

都議選公示日の6月23日。井尻の誘いに乗って「頑鉄」に顔を出した遠野。もっとも「美人秘書=阿部京子のたってのお願い」という井尻の言葉が大きな要因であったことは間違いない。そして楽しく気分よく過ごしたことも確か。何せ前川前事務次官の記者会見直後のことでもあり、井尻が「これから(加計学園絡みの)原稿を書かなくてはなりませんので」と中座したにもかかわらず“今から本番”とばかりに梶谷と阿部秘書は焼酎「黒霧島」をロックで飲み始めたのだから。

女二人、よく飲み、よく喋り、そしてよく笑った。話を遠野に振ることもあれば、真面目に相談することもあった。遠野が口を開くのは、そんな時と酒を飲む時だけ。余分な問いかけは控えた。親爺も気を利かしたのか鰺フライと薩摩揚げをそっとテーブルに置き、遠野と二人で残りの「洗心」を空けた。お互い顔を見合わせふうっとため息をついたのを見計らったように、井尻と入れ違いで入ってきた客が「ごちそうさん」と言って立ち上がった。

遠野がふと時計に目をやると10時を楽に回っている。「お、もうこんな時間か。親爺、鯛茶漬けを少しちょうだい」。注文すると、ロックグラスを口にしていた二人が「私も」と。「君たちはどこまで帰るの?興信所じゃないから詮索はしないけど」。若くていい娘(こ)だけに遅くなるのは心配ではある。「遠野さんなら興信所でも構いませ~ん。詳~しくお教えします。“梶”が北品川で、私は大森山王です」と阿部秘書。

「じゃあ今日はタクシーで送るよ。オレ横浜だから」「え、そんな」とは梶谷だ。「気分よく飲んだことだし、酔っ払いだらけの満員電車に乗るより楽だろ。迷惑でなければだが…」。

「せっかくのお言葉ですから甘えようかな」。阿部秘書が言うのと同時に鯛茶漬けが運ばれてきた。「タクシーならこれ(鯛茶漬け)も味わって食べられるし…。そうしよう“梶”」無邪気に喜んでいる。

結局はタクシーとなり、まずは北品川の旧東海道に入ったすぐの所で梶谷を降ろした。それから池上通りの大森山王までは約15分。二人っきりになると「本当に今日はありがとうございました。楽しい会話ができて美味しい酒も飲めたし、これで来週からも緊張感を保てそうです」。

打って変わって神妙な口ぶりになった。「こちらこそ。オレもこんなに遅くまで飲むのは今年初めてだな。また機会があれば是非」と遠野が対応すると「あら、本気なら機会は作るものでしょ」と言うなり車内灯を点けると手帳を取り出し「来月の21日の19時でいかがですか。体調が許せばお願いします」。

その後は人間関係や社内などの話が続き大森山王で降ろし一人になった遠野。<あの若さで責任ある仕事を任され、全幅の信頼を置かれているのも辛いし、かなりのプレッシャーだろうな>。チョッピリ可哀相な気分になった。

その21日に遠野が「頑鉄」に着いたのは親爺と約束していた6時半。縁台で煙草をくゆらせていたが、顔を見るなり灰皿で揉み消し「どうだった?」。17日に行われた清水の一周忌法要の様子を訊いてきた。「うん。招(よ)んだのは絞りに絞って30人ぐらいかな。札幌や栗東からも昔の部下たちや友達がかけつけたし、清水さんも懐かしかったと思うよ。本堂での読経と焼香の後、例のお墓にお参り。それからお斎の席につき、みんなで偲んだわけだが…親爺を招べなくてごめんな。その分は拝んできたから」「ありがとう。もう一年か。とのさんも暑い中、ご苦労さまでした」。そう言うと遠慮ぎみに煙草に火を点けた。

「な~に。暑いだの辛いだのと嘆くのも生きていればこそだ。いくら立派な墓でも入っちゃえば文句も言えないんだから」。“気にしなさんな”とばかりに手を振り立ち上がった。

7時前に井尻が、間を置いて梶谷と阿部秘書が連れ立って店に入ってきた。カウンターで冷たい麦茶を飲んでいた遠野は、新しい氷をグラスに入れて席に移動してきた。それを見た阿部秘書と梶谷は「涼しくて美味しそう!私も氷麦茶を下さい」と言い「先日はごちそうさまでした」。丁寧に頭を下げた。

そこに氷麦茶二つ、枝豆がどっさりと心太(ところてん)が、続いて井尻用の瓶ビールと「洗心」の四合瓶が運ばれてきた。「黒霧島」はなしだ。

まずは麦茶とビールで乾杯の真似事をした。親爺が4人分の冷酒を注ぎ、仲居さんに「あれを」と顎をしゃくる。「今日は特にヒラメが旨いよ」。刺し身の盛り合わせを用意してたみたいだ。

この間も加計絡みが話題になったが、今度は予算委員会直前とあって、興味津々ってとこだ。「言った言わないの茶番劇はミエミエだな。こうなると、昔の甘方のやり方を笑えないし、怒れないな!井尻よ」「いえ、自分の口からは何とも…」。「局長がどうしたんですか?」。

麦茶から冷酒に替えた阿部秘書が訊く。「いや…」いったんは口ごもった遠野だが「ま、京子ちゃんならいいか。井尻には『甘方はボイスレコーダーを持ち歩き、社内会話もコッソリ録音するような奴だから気をつけろよ』と注意したことがあってね」と言い心太を啜った。

「ふ~ん。フェアーじゃないですよね。そういえば局長おととい(水曜日)暑中見舞いの挨拶と広告依頼を兼ねていらしたわよ」と井尻の方を見ながら続ける。「面白いことがあったの」。“訊きたい?”て感じで全員を見回す。「ほら勿体ぶらないで」とは遠野だ。

「ごめんなさい。局長、挨拶の流れで『今日は土用の入り。いよいよ鰻の季節ですね』と。普通の人なら普通に受け答えするのでしょうが、有村は違っていて『19日は禁門の変があった日でして』とやらかしちゃったんです。局長は思わず『禁門?』と聞き返したら、『あ、いやいや』と手を振って話題を変えちゃいました。それからの有村の態度は…」。

「甘方の薩摩贔屓というか薩摩蘊蓄も底が割れたってことか。蛤御門の変といえば甘方も理解したかも知れないのに」「ええ。これで局長を見る目も違ってくるでしょうね。遠野さんが仰っていましたが<諂いをしくじった>みたいです」。

本当に頭の切れる娘だ。「京子ちゃんも、そんな社長と付き合い、信頼されるのも辛いものがあるね」。「いえ。こうして話を聞いてくれる人がいて、美味しい酒と料理が楽しめるんですから」と微笑む。すかさず「京子ちゃんは偉い!辛いことも楽しい事も料理や酒も“生きていればこそ”。笑顔で頑張ろう」。素っ頓狂な親爺の割り込みだが、誰も違和感を抱いていないところが素晴らしい。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。