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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年06月27日(火)更新

心地好い居酒屋:第22話

地下鉄日比谷線の築地駅の改札を抜けると、階段手前で早くも選挙カーの“雑音”がこぼれてきた。真上の市場通りを走っているのだろう。果たせるかな遠野が外に出てみると、京橋方面に向かってノロノロと走っている。公示日の23日の夕方だ。

夏至を過ぎたばかりで昼が長い。6時半では明るくて飲むのに憚れるが、親爺と雑談でもしながら美人秘書とおまさちゃんを待つのも悪くない。

この前の顔見せから約2カ月。「体調さえ良ければお越し願えませんか。阿部秘書のたっての希望で。ええ、彼女も『急なことで大変申し訳ありませんが頑鉄で7時に』と」。そんな電話が井尻から入ったのが火曜日(20日)のこと。

しばらく顔を出していないし、親爺への義理も果たせるし遠野も彼女との会話を楽しみたい気持ちもある。「甘庶処」の有村の人となりにも興味があり、それこそ「吝かじゃないよ」と応じた次第。

この日は縁台に親爺の姿は見えない。ドアを開けて中に入ると、なんと先客が。先日も来ていた近くのご隠居夫婦だ。晩飯代わりみたいで、これは禁煙効果かな?仲居は見当たらず、親爺が対応している。

遠野は黙礼してカウンターに向かった。ほどなく親爺がやってきて「久しぶり。大丈夫?」「具合が悪けりゃこないよ。心配しなさんな。連中もうすぐくるだろうから、とりあえず冷たい麦茶をもらおうか」。遠野が応えると同時に仲居がお絞りと麦茶を持ってきて、続いて板場に戻り、指定席に人数分のセットに取りかかった。

親爺も麦茶に付き合いながら「サブチャンの相手は何だと思う」。宝塚記念を訊いてきた。「有馬記念の時も言ったと思うけどキタサンは馬場次第だな。土曜日から降るみたいだし…」「とのさんは何買うの」「だから馬場次第だって。2~3時のレースと馬場を見て決めるよ」。ふ~んてな不満そうな感じでハゲ頭を捻ったところに、まるで待ち合わせてたかのように3人が入ってきた。

「ご無沙汰してます。今日はご無理言ってすみません。本当に有り難うございます」。まずは美人秘書が深々と頭を下げた。これにはびっくりで「おいおい勘弁してくれよ。こっちだって“いつ会えるか”と心待ちにしていたんだから」。遠野が慌てると親爺も「そうだよ。この間は一人でもお邪魔するかも、なんて言ってたくせに」と。これで硬さもほぐれ、和気藹々にそれぞれの席に着いた。

お通しは水ナスの塩漬けに蜆の佃煮が人数分。なぜか5鉢ある。酒は前回好評だった「洗心」それに「黒霧島」がボトルで。「あ、すみません。焼酎用の氷はお酒が無くなってからにして下さい」。阿部秘書は飲みモード全開の様子。「待ち合わせてたのか?」井尻に顔を向けた。「いえ偶然です。店に入る手前で3人ともユーチューブで前川(前文科次官)の記者会見を見てたもんで…」。ビールを飲んで続ける。

「骨があるし、正論ですよ。それに比べ政治家の卑劣なこと。あんなもんで道徳や教育を語るんだから無茶苦茶ですよ」。そんな井尻の言葉を受けたのが阿部秘書だ。グラスの酒を飲み干すと「それにメディアも。私、前川さんがあえて記者会見を開いたのは“マスコミしっかりしろ”の気持ちが強かったんじゃないかと。そう思うでしょ!井尻さんも」と言って、遠野が注いだ酒を飲み、水ナスをガブリ。発破をかけている。

記者会見こそ見聞きしてない遠野だが、昨今の事情から、どんな内容だったか朧気ながら察しはつく。「昔から井尻には言ってきたけど、世の中を良くも悪くもするのも一に政治家、続いてマスコミ。次に役人と医者次第だと。だからこそ、自分がその中に身を置いた時は自戒、自重、反省を大切にしなきゃな。ほら、井尻よぉこの間の“良心うんぬん”にも関わるってこと。あ、ごめんね。京子ちゃんには関係ない話にまで飛んじゃって」

「とんでもない。京子ちゃんと呼んでくれたのも嬉しいし、良心うんぬんも聞きたいな」。遠野を見上げながら、ちょこんと蜆を摘まむさまも可愛らしい。おまさちゃんは、全員の顔を見比べながら酒を飲んでいる。

「簡単にいえば“誰も良心から逃げられない”ということ。見えないところで悪い奴なりに苦しむし罰も受けるって話。世の中そうじゃないと、いや、そう思わないとやってられんでしょ」。珍しく遠野も饒舌に真面目に答えた。

そこへ北寄貝とコチ。赤身のマグロが届いた。阿部秘書はマグロに新鮮なワサビを包みこみ、それに醤油をつけて口に放り込んだ。咀嚼を終えるとお絞りで口を拭い、遠慮ぎみに問いかけてきた。

「<さつぞく・あいかん>てご存じですよね」。若い美女からそんな言葉が出るとは思わなかったが、「それ…」と言う寸前に親爺が口を開いた。「<薩賊・会奸>ねぇ。薩摩は賊で会津は奸物――。幕末、薩長同盟の前に長州が好んで使った言葉だろ。それがどうしたの?」。やっと話の仲間に入れて満足そうだ。

「うちの有村は”だから長州人は嫌いだ“と。自分では何もできず薩摩を侮辱しながら利用する時はとことん利用し、握った権力は絶対に放さない。そして逆らう奴は徹底的に痛めつける傲慢で独断専行の”人種“だと。共謀罪や加計問題は生まれるべくして生まれたというのが持論なんです。あ、これも誕生会と同じ私的な会話ですのでよろしく」

「共謀罪にしても国連の捜査官から危険な法律との勧告も知らんぷり。逆に抗議する唯我独尊には恐れ入るよ。なんだか満州事変→満州国建設→リットン調査団→国連脱退……太平洋戦争まっしぐらとなるんだが、国連を脱退したときの全権大使が松岡洋右。こいつも長州人だ。有村社長の意見には納得だね」

「遠野さんと有村は話しも合いそうですし一度、是非「完庶処」に顔を出してくださいよ。おじさんもね」と言うなり阿部秘書と井尻が同時に「よしっ」と。井尻は会社に上がるための、阿部秘書は焼酎に代えるタイミングの「よしっ」だった。

すでに9時。選挙カーの雑音も消え、短いながらもまだまだ夜は続く。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。