競馬JAPAN

協力:
  • Googleログイン
  • ログイン
  • 無料会員登録
  1. TOP・無料コンテンツ
  2. 心地好い居酒屋:第70話
  3. RSSフィード ツイッター YouTube はてなブックマーク

3分で分かる!儲けPOINT3段活用

サムネ画像早いもので夏競馬も折り返し地点を迎えます。開催は函館→札幌、福島→新潟、中京→小...
続きを読む

ちょっとブレイク♪競馬周辺小説

居心地の好い居酒屋  4月の飲み会ではお嬢達が来る前に馬券検討。「皐月賞」に続き「天皇賞」を...
続きを読む

読んで納得の競馬コラム

樋野竜司・今週の政治騎手 前回のコラムで取り上げた田辺騎手はアルクトスでプロキオンSも勝利。2週連...
続きを読む

【PR】岡田牧雄の一口馬主クラブ

ノルマンディ―岡田牧雄の所属馬・生産馬情報も配信!特典満載の¥0メール会員募集中! ...
続きを読む

競馬コラム

心地好い居酒屋

2019年07月10日(水)更新

心地好い居酒屋:第70話

一番暇な遠野が飲み会に遅れた。だいたいが約束の時間がくれば始めるのが決まりだが、若い連中は気兼ねするケースも多く、また体調を心配させても悪いと思い遠野は連絡した。「先に飲(や)っててくれ」と。


理由は簡単。寝ちゃったのだ。「小暑」も過ぎたのいうのに、この8日も肌寒く、遠野は早朝6時前に“冷え”で目が覚めた。もともと心配性で不眠の気があり、眠剤の力を借りているだけに、一度起きると、なかなか寝付けず、ついついテレビのリモコンに手が行き、PGA(ゴルフ)ツアーにチャンネルを合わせたのだ。松山英樹の活躍ももさることながら、レベルの高い首位争いから目が離せず、遂に“イーグル決着”となった最後まで見てしまった。おかげで午前中はウトウト。昼食後ソファーでの軽い昼寝の積もりが熟睡状態に陥り、起きたのは午後5時。これじゃあ間に合うはずがない。


「頑鉄」に着いた時は全員揃っていて、すでに酒盛りは始まっていた。嬉しい限りだ。遠野はテーブルの上にあるビールや焼酎、料理に目を落としながら、席に着き「ごめんね」。まずは謝り事情を説明、最後に「まさに、いわば、そういう中において、遅刻した訳でございまして、そこで、そこでですね!真摯に反省し責任を全うする覚悟であります」と。


周りは一瞬キョトンとして、箸もグラスも止ったが、梶谷が体をブッツケ「もう、遠野さんったら。アイム・ソーリーですか」。これで遠野のサブ〜イ冗句も理解してもらった。全員が大笑いしながら、改めてそれぞれの飲み物や肴を口にした。お通しは茄子の煮浸しのようだが、他にドッサリの枝豆と薩摩揚げが置かれている。


「とのさんが到着したことだし、ボツボツおまさちゃんお待ちかねの日本酒にするか」。独り言のように呟き、親爺が立ち上がった。「おまさちゃん!冷酒我慢してたんだ。ごめんごめん」。遠野が頭を下げると「違う違う。私『黒霧』嫌いじゃないし、それに今日は別の銘柄を用意しているらしいから…。どうせなら遠野さんがいらしてから一緒に開けようかな、と」。チラリ舌を覗かせ横目で遠野を見た。


「お待ちどう。刺し身は今やってるから」と言い親爺が持って来たのは山形の酒・出羽桜の純米大吟醸「一路」だ。「いやね。ほら、あちらのゲーム屋さんが、『今日は米沢牛を食べたい』って注文があったもんでね。たまには『十四代』や『上喜元』とは違う山形の酒もありかな、と思って。あ、そうだ。刺し身はイサキにツブと鯒、それに、ヅケも準備してるけど、後で肉も食べる?」「いいねぇ。“真摯に反省し責任を全うする覚悟”だからなぁ。肉ぐらいはご馳走しないと」


そんな2人の会話をよそに梶谷は刈田の酌で「一路」を受け、グラスをそのままに四合瓶を片手で持つと「ホラ早く」と言い、遠野と親爺を急かした。酌が終わったところで改めて全員がグラスを上げた。一口つけた梶谷は「芋の後だからかもしれないけど香りが凄く上品。美味しい!シ・ア・ワ・セ」と。


「ところで俺が来た時、侃々諤々というか、結構盛り上がっていたけど何かあったの」。遠野の問いかけにいち早く反応したのが下川で、「黒霧」のロック片手に「広告の椎名の話では、甘方局長が別部さんの席まできて『若い連中に聞いたけど、君はまだ、あんな広告も出さない店(甘庶処)に通ってるのかね。経費も勿体ないし、そんな暇があったら他を当たれ!何のための開発部長だ』と」。遠野は黙って酒を飲みながら、下川を見詰め先を促した。


「さすがに別部さんもムッとしたらしく『経費は一銭も使ってません。それに出稿のチャンスも残ってます』。反論すると『経費の問題じゃない。一方的に広告を切る非礼に腹を立ててるんだ』『いえ。一応、止めるまでの期間はいただき、事情は局長にも報告しています』『分かった。もういい。俺に口答えするとは偉くなったもんだ』。捨て科白を吐いて離れたそうです」。そこまで言うと、焼酎を飲み干し残った氷をカラカラと鳴らした。


「今まで世話になっていたんだし、増して編集局長が怒ることでもないだろ」。刈田が無難な感想を述べると、梶谷が「それって局長自身の問題で赤…」と言い掛け口を噤んだ。遠野は足で足を突いた。“赤貧と清貧は違う”と有村に指摘されたことで、恥をかかされたと思い逆恨みしているのは間違いない。梶谷はそれを言おうとしたのだろうが、この事実は刈田、下川、横山は知らない。いわんや他の社員をやだ。


意外と敏感な下川が問うた。「何ですか?その局長自身の“セキ”とは」「いえ…。ほら席(せき)まできて、とか言ってたから」。いつもは毅然としている梶谷も慌ててゴニョゴニョと誤魔化し、届いたばかりの刺し身を摘まんだ。


「そうなんです。椎名も『席まできた局長の逆鱗(げきりん)に触れた以上、別部部長も藤並局長に頼るしかないな』と同情しきりで」。聞いてた井尻は何か言いたそうだったが、まさか皆の前で局長の評価を下げるような発言はできない。仕方なく遠野が代弁した。


「その椎名君に言っといて。“逆鱗に触れる”ってのは帝や太子、王様を怒らせることで、甘方はそこまで偉くはないでしょ、ってね。スマホで検索しといたら」。部外者でなければ言えない甘方に対する皮肉、と同時に言葉の使い方の忠告でもある。


話が落ち着いたように思えた時、「あっ」と声を出したのが横山で「そういえば6日土曜日の函館新馬戦にリュウノゲキリンという馬が出ていましてね」と言い遠野を見、冷酒用のグラスを差し出し「自分もお酒を」と。「おっ。気がつかなくて悪い」と言い、酌をしながら「ほう〜。で、どうした?」。恍けて訊いた。「これが何と他の馬に触れさせることなく2番手から抜けだしての快勝。強かったですよ。でも、今後のレースで他の馬が<龍の逆鱗>と競り合い、万が一接触でもしたら激怒して大暴れするかも知れませんね」。ちゃんと分かっているようだ。


席に居る連中はしっかり育っているし、井尻への忠誠もある。この状況なら遠野があれこれ口を挟まなくても、井尻が甘方ベッタリで、自分を見失うようなことはあるまい。それこそ梶谷の年金じゃないけど、人のことをあれこれ心配するより自分の体を心配した方が、睡眠のためにも利口かも知れない。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

  • twitter
  • facebook
  • g+
  • line
閉じる 競馬JAPAN