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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年04月25日(水)更新

心地好い居酒屋:第41話

23日の月曜日は、前日までの猛暑と違ってヒンヤリ。いや、最も過ごしやすい陽気でもあった。遠野が7時過ぎに入って行くと、「頑鉄」はすでに満席状態。“放歌高吟”は禁止だが、それでも、男女20人近い人数が詰まると結構賑やかだ。男だけなら入りきれなくても女性が加わればチャンと収まるのだから不思議。もちろん「頑鉄」の客の中にセクハラ行為に及ぶ奴はいない…はず。

顔見知りの人間に手を挙げたり、頭を下げたりしていつもの席に向かった。例によって下川は不在。土間沿いに横山、刈田、そして上がり框(かまち)に親爺が座り、壁側の手前に井尻と梶谷が。一番奥はちゃんと空けてくれている。「遅れて申し訳ない」と言いつつ、

指定席に腰を下ろした。お絞りを使いながら、ふとテーブルに目を落とすと、梶谷と遠野の中間ぐらいに珍しい銘柄の酒が置かれていて「富久長」とある。

<ん?>てな感じで顔をあげると、親爺より先に横山が口を開いた。「親方が万馬券を取ったんです」「へぇ。昨日のフローラSで儲かったんだ」と遠野。「いやいや。オレがGⅡの難しいトライアルを買う訳ないじゃん」。<分かってるくせに>との目配せをし、親爺が手を振る。

「すみません先走って…。取ったのは皐月賞の⑦⑭ですって!。同じGⅠなのに桜花賞はケンらしいですから凄い勝負感ですよね」。感心しきりだ。遠野は素知らぬ態で「ほう。親爺は偉い」と。(4月)6日の会合については刈田と横山はまだ知らない。

そこは親爺も強(したた)かだ。「まぐれだよ、まぐれ。ただな、この幸運を皆と味わいたいと、思ってね」。何でも<フクは福に通じるし、富が久しく長く>との縁起担ぎで、この日のために仕入れたらしい。親爺が説明してる間に梶谷がその「富久長」を遠野に注ぐ。遠野が来るまでは遠慮して焼酎だった横山と刈田が「ご相伴に与ります」と頭を下げグラスを手にした。彼らも少しづつ日本酒の旨さが分かってきたみたい。井尻は変わらず瓶ビールだ。改めての乾杯となったのだが、この日の乾杯には意味がある。「親爺!おめでとう」という。

精米率は山田錦の40%。「蔵元は瀬戸内に面している安芸津町だから、魚料理に合うように工夫したとか。まぁそれが謳い文句だけどな」と親爺。「チョッピリ酸味があって辛口かな。でも美味しい」と微笑み、飲み干した梶谷に、“今だ”とばかりに刈田が酌をする。受けた梶谷は「あ、どうも」で当然のような顔つき。酌をされた方よりした方が喜んでいるんだから世話はない。

遠野がお通し(筍の木の芽和え)を食べていると横山が訊いてきた。「この間、金山部長に『自分の頭の蝿を追え』と仰ったとか。具体的にはどんなことがあったのですか」「おいおい、そんなの覚えてたの」。遠野がふざけ気味に応じた。「あ、いえ自分も原稿や取材には気をつけなければ、と思って…」。「原稿ねぇ」と呟き、針魚(さより)の刺し身を口に入れ、続けて「そうだな。例えば…。昔、時の人から寄稿して貰ったんだが、その見出しとリードが酷くて」。そこまで言うと、初鰹を前にしながらも、全員の手が止り身を乗り出した。

「なんと『スクープ!あの北村氏(仮名)が特別原稿を寄稿してくれた』ときたもんだ」。聞いてた梶谷は口を押さえ「プフッ」と即座に反応し<他には>てな顔で先を促す。「ある有名人の回想録では『血相を変えて抗議の電話してきた』というのもあった」。聞いた方はそれが何か?と怪訝そうだったが、またまた梶谷が反応「テレビ電話なんてない時代に血相を変えたかどうか分かんないですよね」と笑いながら、遠野に酌をし、そのまま4合瓶を遠野に渡し、自分のグラスを差し出した。やっと針魚の刺し身を摘まんだのは新しい酒を一口飲んでからだ。他の連中もそれぞれに鰹や鯖、鮪に箸を付けた。

「結束力や組織が弱まり、バラバラになることを金丸信という昔の大物議員が“馬糞の川流れ”と表現したが、それを、どう記憶していたのか『あの監督はチームをまとめきれず“河童の川流れ”状態だ』てのもあったな。ま、細かいことを言い出したらキリがないから」と言い、桜より鮮やかな濃いピンクの鰹の平造りを口に入れた。

「でも、こんな“言葉遊び”なら面白いけどなぁ。続けて下さいよ」と梶谷が左腕で遠野の右腕を突っついた。底抜けに無邪気で明るい。黙って聞いていた横山が「それで“頭の蝿―”になった訳ですか」「まあな。原稿の内容が面白いかどうか、ボキャが豊富で、それを巧く使いこなしているかどうかは主観もあるから、なんとも言えん。ただ半可通野郎の明らかな間違いと、お為ごかしのご注進にも虫酸が走っていたし…」「で、遠野さんが切れた」。周りは一瞬<遠野さんに向かって何てことを>との雰囲気を醸したが「いけねぇ。おまさちゃんに乗せられついつい長講釈をしちまったよ」。遠野の苦笑いに、ホッとしたようだ。

「二人の間にそんな遣り取りがあったとは…。自分も今、知りましたが、金山さんが甘方局長にベッタリくっついたのは“頭の蝿”がきっかけですかねぇ」。井尻が感慨深げにビールをグビリ。<その甘方は現在の総合政策室長の島内ベッタリだろ>と言いかけたが、刈田と横山の“顎”がどの程度か、甘方をどう思っているか判明してないだけに遠野は口を噤んだ。

そこへ折良く天ぷらが届いた。「コゴミにタラの芽、蕗の薹だよ」と自慢気に親爺。「美味しそう。でもお酒なくなったし…」。梶谷が遠野を見、親爺と井尻の顔色を窺う。「今日は任せろ」と胸をたたいたのは親爺で、さっと立ち上がり「洗心」片手に戻ってきた。梶谷が手をたたき、遠野が「ご馳走さん」と手刀を切ると「皐月賞の配当でお釣りが来るってことさ。それより、天皇賞は何を買うの?」

「クリンチャーに気があったが豊ちゃん乗れなくなったからなぁ。穴ならチェスナットと思うけど…。親爺は、その名前からもサンリヴァルの藤岡に感謝を込めてガンコ=頑固は買っとかないとな」

 問答を聞いていた横山が「頑鉄」の由来をホンのちょっと知ったみたいで「頑固一徹もいいですけどアルバートにシュヴァル、サトノあたりも是非」と。“鉄”と“徹”の違いを説明するに値する人間かどうかは今後の付き合い次第だ。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。