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競馬コラム

心地好い居酒屋

2018年06月20日(水)更新

心地好い居酒屋:第45話

立夏のころは、すでに真夏だったのだが、夏至間近の18日はといえば、最高気温が20度に満たない冷たさ―。どうやら世の中と同じように季節も狂ってきたようだ。そんな折も折、大阪を中心に関西は震度6弱の地震に見舞われた。

この日は井尻から甘方との会食報告を受ける予定の飲み会だったのだが、社会部長としての立場を考えると<ちょっと無理かな>とも思った。ところが、これが全くの逆で「ザッツ築地」最終版の印刷が始まった直後であろう1時前に井尻から電話が入った。「他の連中が来る前にお会いできませんか?できれば5時には…」。ゲンキとゲンキンは細くなってきたが、時間だけはタップリの遠野に否やはない。増して、遅くなるほど雨が強くなるとの予報が出ているだけに願ったり叶ったりだ。

井尻のご要望に応えて早めに行くと、今にも泣き出しそうな空の下、縁台に腰を下ろし親爺と一緒に煙草をクユらせていた。その奥の狭い前庭からは盛りを過ぎた紫陽花が顔を覗かせている。「二人そろって至福の時だね」。遠野が声をかけると、驚いたように振り向き、ゴニョゴニョ挨拶し、クセだろうか、慌てて煙草を消そうとする。「オレは大丈夫だよ。ほら!煙は紫陽花に当たって消えているから」と言い、親爺の隣に座った。

残りの煙草を吸い終えた親爺が「変な天気だねぇ」と独りごち、立ち上がり店に消えた。

「今日はお疲れ。忙しかったんじゃないか」。一応、労う。「大したことないっすよ。もっとも12時前後に発生してたら、どうするか時間的にも悩むところでしたがね」と言いながら煙草を灰皿で揉み消した。「そうだな。7年前の大地震の時も時間が時間だけに新聞は何もできなかったもんな」「やっぱり映像ですよね。いつでも流せるし衝撃、印象も活字の比じゃないし、この商売も限界ですかねぇ」。溜め息まじりに嘆くと、胸元から“マルボロ”の箱を取りだし一本引き抜き左手で弄ぶ。「気にすんな。旨いと感じるウチが花だぞ」「はい。有り難うございます」。頭を下げ、火を点けたところに親爺がお盆を手に戻ってきた。ビールと徳利に枝豆と蒲鉾が乗っている。

「チョッピリ肌寒いから、とのさんはとりあえず熱燗にしたよ。それに、この蒲鉾は“知ったかさん”の持ち込み」。必要最低限だけのことだけ言い、再び居なくなった。さりげなく気をきかせるところが、親爺の親爺たるゆえんだ。

「どうした!この蒲鉾は?甘方と関係あるのか?」。1時過ぎの電話と今日の案件。二人っきりの状況作りと持ち込み…。遠野なりに感じるところがあったからこその先回りなのだが、果たせるかな「さすがですねぇ遠野さんは。あ、いえ失礼しました。実はその通りで午前中に局長からコッソリ頂きまして」。照れ気味に恥ずかしげに、そして正直に答えた。

「なるほどなぁ。どうせ『女房から井尻さんを大事にしないと、と説教されてな』なんて言い訳しながらだろ」。遠野が手酌の酒を飲みながらカラカイ口調で言うと、さすがに井尻もビックリ仰天。煙草に噎せ、しばし苦しげにゲホッゲホッとした後「畏れ入りました。まるで見聞きしてたみたいです。局長が言うには東京にはなく、奥様が日曜日に小田原で購入したとか。それにしても…」。

「そんなに驚くことじゃないよ。かつて同じような事を言った上司と言われた部下を知ってるだけさ」「……」「おいおい、勘違いすんな。俺に絡んだ話じゃないからな」。

しばし黙然としていた井尻が意を決したかのように訊いてきた。「で、その二人の関係はどうなったんですか?」「上司が急逝したから何とも言えん。ただ…。いや、そんなことより久しぶりの会食はどうだったんだ?」。井尻は「ただ…」の続きを訊きたかったようだが、遠野の質問を優先せざるを得ない。何せ、それが5時集合の目的だから。

「東銀座の小料理屋に行く途中『オリンピックの時は応援部隊ありがとな。運動部ということで金山に指揮を取らせたが、井尻の協力がなければ、あんなにスムーズにいかなかったはず』と褒めてくれましてね」。ホッとした表情になり枝豆を剥き出し、手のひらで転がした。「えらく低姿勢だな」。含み笑いで井尻の言葉に合いの手を入れた。

「それに『ワールドCは運動部だけでやらせるし、社歴と年齢でニュースの小杉と金山が編集局の双璧と誤解してる奴が多いそうだが、俺は井尻も同格だと思い期待してるぞ』とも」「そうか。結構結構!お前が重宝されるのは喜ばしいこと。後は、くどいようだが盲従しないことだな」。

山田の一件をコロッと忘れているし、言いたいことは沢山あるが、気分良くしている井尻に、現時点でこれ以上の言葉は“忠告”ではなく“中傷”になりかねない。遠野はとりあえず話を打ち切り、やや緩くなった酒を飲むと時計に目をやり「ボツボツ連中も来る時間だな。先に入ってるぞ。お前はもう一本吸ってノンビリしてからにしたら」と言い残し、徳利と猪口を持ち席を立った。

店に入ったとたん「お疲れさん」と親爺。「いやね。今日の“知ったかさん”はウキウキしているようで緊張感もあって<どうしたもんか>と悩んでいたところよ。そこへとのさんが来たから<はは~ん>と納得したよ。例の甘方ってとの会食はうまくいったんだろ」。

一人ポッチになっていたせいか、徳利と猪口をひったくると、遠野に向かってまくし立てた。

「まあな」。遠野が答えると「何がともあれ、とのさんが言うんなら間違いねぇや。今日は駿河湾で揚がった活スルメで乾杯だな」「活スルメは歓迎だが、細かい話を若い奴らに聞かせる訳にはいかんし、京子ちゃん同席の時じゃないと。従って今日は甘方の話題も乾杯もなし!」。遠野がキッパリ拒否すると「いけねぇいけねぇ」と禿げ頭を叩いた後、その指で口にチャックの振りをした。「でもよぉ。話は違うけどあの蒲鉾は愚痴(グチ)の上物だよホント」と言って外に出た。皆が集まる前にビール瓶とグラスを片付ける積もりだろう。


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。